
クラインの壷 (新潮文庫)
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現実と非現実が混同する世界。
まさにシュミラークルだ。
最後の企業の内部を暴こうとする上杉の緊張感がたまらなかった。
2002年読了

皮膚に熱感や触感を与えることで脳に錯覚を起こし、あたかも実際にその出来事を体験しているかのような気分が味わえる仮想空間を取り扱っている点が本作の醍醐味だろう。
しかし、仮想空間を取り扱う物語における粗筋というのはほとんど既に用意されていると言っても過言ではない。
その粗筋とは、仮想空間と現実との判別がつかなくなるというものだ。あまりに現実的な非現実を繰り返し体験する余り、現実に解放された感覚をも経験として感じ、現実へ回帰したのか未だ脳の錯覚の世界に入り浸ってしまっているのかわからなくなるという展開だ。
本作においてもその展開が敷かれていた。
その点は残念だったが、仮想空間を舞台とした以上、仕様が無いことなのかもしれないと諦めの感情も覚えた。
しかし、本書が他書と異なっていた点は結末にある。本書の主人公、上杉が遂げた最後は、自殺だった。どれだけ現実的か。私はこの点を最大に評価したい。
現実と仮想現実の判別が出来なくなったが、真の友情、真の愛に心を取り返し、更に我をも取り戻したなんて、それこそが仮想現実である。そして大概の物語がこういった、所謂ハッピーエンドを結末に用意してある。
そうしないと報われないからだろうが、それでは物語的過ぎるのだ。
対して、本書では意識混濁の中、世界から抜け出すために死を選んだ。極めて現実的である。最高に残酷で、最高に救われない。
死ぬことはゲームを終わらせる術であるのと同時に、現実を終わらせる術でもある。
色々な苦難や苦悩から解放される最も手軽な手段なのだ。深く同感だ。私もそうするだろう。
科学が日に日に進展する現代において、昔よりも現代と仮想の境界線が曖昧になってきている。SNSで会話もしたことのない友人を作ったり、ネットを介して金銭の取り扱いも行える。複雑なのか単純なのか一見判然としない現代だからこそ、仮想と現実の境をより強固に、より鮮明にしなくてはならないと考えさせられる一冊だった。