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七つの黒い夢 (新潮文庫)

七つの黒い夢 (新潮文庫)

乙一

この本の所有者

17人が登録
1,403回参照
2008年4月27日に更新

書籍情報

著者:
乙一
ページ数:
208ページ
参照数:
1,403回
登録日:
2008/03/03
更新日:
2008/04/27
所有者:
aoitaku aoitakuさん

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内容紹介

天使のように美しい顔をした私の息子。幼稚園児の彼が無邪気に描く絵には、想像を絶するパワーがあった。そしてある日―。乙一の傑作「この子の絵は未完成」をはじめ、恩田陸、北村薫、岩井志麻子ら、新感覚小説の旗手七人によるアンソロジー。ささやかな違和感と奇妙な感触が積み重なり、遂に現実が崩壊する瞬間を描いたダーク・ファンタジー七篇。静かな恐怖を湛えたオリジナル文庫。
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📝 レビュー (aoitakuさんのレビュー)

評価:
5/5
レビュー:
 奇談・怪談を七人の作家がそれぞれ個性でもって書き綴った短篇集。
 七作品、それぞれがそれぞれの作家の味がして、どれも美味しい作品でした。

 ということで、感想は作品ごとに。

***

・この子の絵は未完成(乙一)
 繊細で美しい一作。
 実は私、乙一作品をこれまで一作も読んだことありません。で、これまで、いわゆる「黒い」内容が多いような印象を(勝手ながら)持っていたので、七つの黒い夢と聞いて黒い作品かと思えば、そんなことはなかったわけです。
 さておき、この作品の見所はというと、結末の美しさであるとか、そこに至る過程であるとか、そういうことではなくて、むしろ、非常識が当たり前のように描かれているところにあると思います。そしてそれについて何ら理由の説明がない。この妙をこそ味わってほしいなぁ、と。

・赤い毬(恩田陸)
 不思議な体験を綴った、味わい深い作品でした。
 追体験するように、「私」の独白と「私」の視点での描写で物語が展開していくわけですが、臨場感であるとか、緊張感であるとか、それがとてもよく表現されていて、引き込まれずにはいられない。
 特に、独白に対する「母」の否定と、それでもそれは事実だったのだと、「私」が「母」の言葉を否定することで、その体験の奇妙さ、不思議さを印象付けている点に注目してほしいところ。「私」と「母」、そして「祖母」と、その連なりにも、もちろん無関係ではないと思うので。

・百物語(北村薫)
 実は私、怖い話が苦手なんです。
 怪談や都市伝説の類が特に苦手でして、はっきりしないもの、正体の分からないものなど、背筋にぞくぞくと電気が走るようです。
 で、百物語というと、一つ一つ怪談を話していくわけですが、別に百物語をひとつひとつ語る、そういう話ではありません。短篇ですから、ページが足りるわけがありませんし。なので、百物語を題材にした、怪奇小説ということになります。
 おお、怖い怖い。
 この作品で秀逸なのは、まず導入で、「わたし、寝たくないの」の一言はかなりインパクトが強かったです。男ならあらぬ想像をするところですが、そうではない、とすぐに示して、事情を説明しながら、本題へと入っていく、その流れもスムーズでした。
 それから、「ろうそくを消す」行為の代替として部屋の灯かりをひとつずつ消すところ。これが徹底されていた、という点もとてもよい。なにしろ、電話機のランプまで消すという。しかも意味があってのことなので、なおのことよい。
 そして、何より、最後の一文。ここには書きませんが、これは……ぞっとしますね。余韻の残し方というか、結末のぼかし方というか。
 さて、ここらで一言「おまえだー!」が怖い。

 まんじゅう怖いでした。

・天使のレシート(誉田哲也)
 タイトルホイホイでした。
 これについては細かな感想は書きません。展開の妙をぜひ味わってもらいたいので、多くは語りたくないんです。
 ただ、この一冊にあって、この作品が一番好きかも。

・桟敷がたり(西澤保彦)
 これまた後味の悪い一作。
 面白いと思ったのは、直接ではなく、事件を通して心理を描き出す点。徐々に明らかになる事件の容貌から、そこに込められた感情を知って、そのおぞましさが見えてくる。
 もちろん、事件を紐解く過程もよく練られていて、これはいいミステリでした。

・10月はSPAMで満ちている(桜坂洋)
 一応、よくわかる現代魔法の外伝的な話になってるみたいです。
 桜坂節満載。情報産業的な話題も、これでこそ桜坂洋です。
 SPAMを取り扱う会社に入った「ぼく」の話は、ちゃんとSPAMで終わります。
 もちろん、タイトルも無意味ではなくて。
 なんというか、よくわかる現代魔法を読んでると嘉穂が「すーぱーはかー」なのは自明なので、特に「やられた」というわけじゃないのだけれど、「やられた」人間を見てるのは微笑ましくていいですね。まぁ、分かってて書いてるんだろうけど。
 それにしても嘉穂かわいいよ嘉穂。

・哭く姉と嘲う弟(岩井志麻子)
 怪談語りの体裁を取った、この話自体も怪談、という二重構成の妙がとても心地良い作品でした。
 そこかしこにただようエロティシズムも、とても味わい深い。「姉」と「弟」という立場を選んだのも、そのためかなと思います。あと「弟」の視点で語られる奇談に対する感想の、語り口調の丁寧さとかも。
 視点がずっと弟視点できて、最後に実は、という展開は、一人称だからこそできることですね。姉の描写がまったくない点も、まさしくそのため。

 ごちそうさまでした。

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