みんなのレビュー
全30,404件のレビュー
私を喰べたい、ひとでなし 3
苗川采
愛憐重きこと万鈞の磐石を過ぎたり。
親友の存在が死を思止まらする係累を果たすべきに、異類の本性を知れば却って後顧の憂を晴らしてしまったのは皮肉かな。
親友の存在が死を思止まらする係累を果たすべきに、異類の本性を知れば却って後顧の憂を晴らしてしまったのは皮肉かな。
17時間前
私を喰べたい、ひとでなし 2
苗川采
あな悼ましや、遅るる者のサバイバーズ・ギルトを描きたるや真に迫れるよ。
話が啻に湿り気あるだけに留まらず伝奇調を強めてきた。続きが気になる。
やはり三角関係は人間ドラマの基本形……、美胡ちゃんの陽も陰もある立振舞が印象的だった。
話が啻に湿り気あるだけに留まらず伝奇調を強めてきた。続きが気になる。
やはり三角関係は人間ドラマの基本形……、美胡ちゃんの陽も陰もある立振舞が印象的だった。
17時間前
“階級”の日本近代史
坂野潤治
#NLMA
本書は近代日本政治史の書にして、明治維新より日華事変勃発迄の日本近代史を、「階級」と「政治」の関係、殊に「政治的平等」と「社会的(経済的)不平等」の捩れを焦点に分析してゐる。
明治維新は、士農工商の「士」の特権を廃止した大社会革命であり、秩禄処分(家禄支給の廃止)は身分に依る格差を金銭的な格差に変へた。然し、地租改正は農民間に格差を固定化せさせ、富裕な農村地主の小作料収入を保障した。初期議会(1890年開設)は、士族と地主からなる約80万〜90万人の有権者に依って支へられ、地主層の要求する「政費節減・民力休養」(小政府論)を掲ぐる民党(自由党など)と、富国強兵(大政府論)を掲ぐる藩閥政府が対立した。日清戦争の勝利と賠償金は富国強兵の財源となり、地主層も米価高騰で実質的な税負担が軽減した故に、政党指導部は積極財政へと転換し、藩閥との協調(万年与党化)が進んだ。
大正時代には、地主基盤の政党支配(政友会)を批判し、都市民衆を基盤とする普通選挙制(普選)を求める声が高まった。1925年に男子普選が実現し、労働者や小作農も政治的平等を獲得したが、同時に制定された治安維持法は、「私有財産制度の否認」を目的とする結社を厳罰に処し、普選の精神である社会的平等の実現を阻害した。
世界大恐慌下、健全財政(緊縮)を志向した民政党内閣(浜口雄幸・若槻礼次郎)は、金本位制への復帰を断行し、失業と農村窮乏とを招いた。此結果、既成政党への不満が高まり、青年将校(海軍・陸軍)が政党政治を財閥と結びついた腐敗勢力と看做して反体制化し、五・一五事件(1932年)に依り政党内閣は崩壊した。
五・一五事件後、「挙国一致」内閣が続いた時代、軍部や新官僚は、議会政治を回避する為に、財界代表を含む職能代表制的なる国家機関(内閣審議会等)を模索した。此動静は、社会的弱者の代表を排除し、財閥の影響力を増大させた為に、社会民主主義勢力(社会大衆党)の期待は裏切られた。
然し、1937年4月の総選挙では、軍拡を批判し、格差是正を含む「広義国防」を訴へた社会大衆党が躍進し、「政治的平等」が「社会的平等」の実現に向かふ道が開かれつつあった。だが、直後に日中戦争が勃発し、此民主化の芽は圧殺された。
武士階級の廃止には46年、上層農民の政治支配には26年、「大正デモクラシー」(普通選挙制)の実現には20年を要した。而して、1925年に成立した「政治的平等」が、「社会的平等」或いは「格差の是正」へと発展し始めたのは、僅か12年後の1937年の総選挙に於いてであった。 著者は、この流れが「総力戦」や「総力戦体制」の有無に拘らず、時代を動かしてゆく不可逆的なものであったと主張し、従来の歴史研究で「総力戦体制」が「社会的平等」を齎したと云ふ肯定的評価があることに対し、批判的な立場を取る。戦争に依る「平等」の実現は「目の錯覚」であるとし、平和と自由の下にこそ平等が追求せられるべきとする。
本書は近代日本政治史の書にして、明治維新より日華事変勃発迄の日本近代史を、「階級」と「政治」の関係、殊に「政治的平等」と「社会的(経済的)不平等」の捩れを焦点に分析してゐる。
明治維新は、士農工商の「士」の特権を廃止した大社会革命であり、秩禄処分(家禄支給の廃止)は身分に依る格差を金銭的な格差に変へた。然し、地租改正は農民間に格差を固定化せさせ、富裕な農村地主の小作料収入を保障した。初期議会(1890年開設)は、士族と地主からなる約80万〜90万人の有権者に依って支へられ、地主層の要求する「政費節減・民力休養」(小政府論)を掲ぐる民党(自由党など)と、富国強兵(大政府論)を掲ぐる藩閥政府が対立した。日清戦争の勝利と賠償金は富国強兵の財源となり、地主層も米価高騰で実質的な税負担が軽減した故に、政党指導部は積極財政へと転換し、藩閥との協調(万年与党化)が進んだ。
大正時代には、地主基盤の政党支配(政友会)を批判し、都市民衆を基盤とする普通選挙制(普選)を求める声が高まった。1925年に男子普選が実現し、労働者や小作農も政治的平等を獲得したが、同時に制定された治安維持法は、「私有財産制度の否認」を目的とする結社を厳罰に処し、普選の精神である社会的平等の実現を阻害した。
世界大恐慌下、健全財政(緊縮)を志向した民政党内閣(浜口雄幸・若槻礼次郎)は、金本位制への復帰を断行し、失業と農村窮乏とを招いた。此結果、既成政党への不満が高まり、青年将校(海軍・陸軍)が政党政治を財閥と結びついた腐敗勢力と看做して反体制化し、五・一五事件(1932年)に依り政党内閣は崩壊した。
五・一五事件後、「挙国一致」内閣が続いた時代、軍部や新官僚は、議会政治を回避する為に、財界代表を含む職能代表制的なる国家機関(内閣審議会等)を模索した。此動静は、社会的弱者の代表を排除し、財閥の影響力を増大させた為に、社会民主主義勢力(社会大衆党)の期待は裏切られた。
然し、1937年4月の総選挙では、軍拡を批判し、格差是正を含む「広義国防」を訴へた社会大衆党が躍進し、「政治的平等」が「社会的平等」の実現に向かふ道が開かれつつあった。だが、直後に日中戦争が勃発し、此民主化の芽は圧殺された。
武士階級の廃止には46年、上層農民の政治支配には26年、「大正デモクラシー」(普通選挙制)の実現には20年を要した。而して、1925年に成立した「政治的平等」が、「社会的平等」或いは「格差の是正」へと発展し始めたのは、僅か12年後の1937年の総選挙に於いてであった。 著者は、この流れが「総力戦」や「総力戦体制」の有無に拘らず、時代を動かしてゆく不可逆的なものであったと主張し、従来の歴史研究で「総力戦体制」が「社会的平等」を齎したと云ふ肯定的評価があることに対し、批判的な立場を取る。戦争に依る「平等」の実現は「目の錯覚」であるとし、平和と自由の下にこそ平等が追求せられるべきとする。
18時間前
絵で見る中国の歴史
龔延明, 新倉健, 岡田英弘
原書は、平成3年(1991)に浙江省少年児童出版社より出版せられた、龔延明 編『絵画本 中国通史』叢書である。体裁としては、王朝毎に時代を区分して、各時代毎に政治・経済・科学技術・文化・社会生活の五つに分けて叙述してゐる。
原書編者曰く、合はせれば通史となり、分ければ断代史となる、との由。
監修者の岡田英弘は、正史とは、皇帝支配の正当性の証明の歴史であり、民国以降を記してゐない本書も亦、皇帝の歴史を語る伝統的な正史に属すると評価する。 本書を見るに、華人は『史記』の枠組みから脱してゐないとかや、華人にとって歴史とは政治に奉仕すべきものであって其歴史は単純な事実の記録ではなく政治的立場の主張であるなどと、岡田節が炸裂してゐる。
原書編者曰く、合はせれば通史となり、分ければ断代史となる、との由。
監修者の岡田英弘は、正史とは、皇帝支配の正当性の証明の歴史であり、民国以降を記してゐない本書も亦、皇帝の歴史を語る伝統的な正史に属すると評価する。 本書を見るに、華人は『史記』の枠組みから脱してゐないとかや、華人にとって歴史とは政治に奉仕すべきものであって其歴史は単純な事実の記録ではなく政治的立場の主張であるなどと、岡田節が炸裂してゐる。
1日前
社会思想史事典
社会思想史学会
巻頭言に曰ひしく、自明とせられたりし近代の揺らぐ今日に、吾らの行く末を案ずるには、其社会の依りてきたる近代の枠組の精査を要すと。明日を思ふには昨日を知らざるべからず、是を以て社会思想史の学問上の意義を明らかにせり。
数十年来の学知の近代批判の潮流に棹刺し、近代の可能性と限界とを問ふ試みは、現代理解に蓋し必須と、本書は近代を眼目としたるを強調せり。
本書は「読む事典」型の中項目主義の専門事典である。ルネサンスより21世紀までを五部構成として時系列上に排列し、各時代毎に複数の章を立て、各章は其々の主題の下に各項目を分類して収めてゐる。編者によれば、読者が通時的・共時的聯関の下に把握し得るやうに編纂したとの由。
一項目当たり2-4頁である。従来狭義の社会思想史では手薄なりし文化・芸術や非西欧地域に関する事項も之を収載したと。人名項目は一割に留め、事項項目を主とする。
数十年来の学知の近代批判の潮流に棹刺し、近代の可能性と限界とを問ふ試みは、現代理解に蓋し必須と、本書は近代を眼目としたるを強調せり。
本書は「読む事典」型の中項目主義の専門事典である。ルネサンスより21世紀までを五部構成として時系列上に排列し、各時代毎に複数の章を立て、各章は其々の主題の下に各項目を分類して収めてゐる。編者によれば、読者が通時的・共時的聯関の下に把握し得るやうに編纂したとの由。
一項目当たり2-4頁である。従来狭義の社会思想史では手薄なりし文化・芸術や非西欧地域に関する事項も之を収載したと。人名項目は一割に留め、事項項目を主とする。
2025年10月27日
私を喰べたい、ひとでなし 1 1
苗川采
海底蒙然たる滄溟・蒸溽たる夏日・忡々たる希死念慮。雰囲気重たげにして大気は盛夏日盛時の質量を帯びたり。
主人公が夏でも露出の少ない服装をして傷痕を隠してゐることが読者をして悼ましめる。
主人公が夏でも露出の少ない服装をして傷痕を隠してゐることが読者をして悼ましめる。
2025年10月23日
謹訳源氏物語 1
紫式部, 林望
林望先生訳源氏物語の第1巻。桐壺、帚木、空蝉、夕顔、若紫を収録。訳文は読みやすく、すらすら読める。難関の和歌にはきっちり訳がついていて、分かりやすい。帚木の最後の方で、閨の中にまで連れ込まれながら操を守り通す空蝉はなんて意志が強いのだろうと思うが、自分が逃げたら軒端の荻がどうなるか分かるだろうに、その無責任さや、最後に関係を持たなかったことを残念がったりするところを読むと、そうばかりではないなんだか妙に人間味を感じる。素直に源氏を受け入れた軒端の荻はどうでも良くなり、なかなか受け入れない空蝉には執着すると言うのも分かる気もするが、困ったものだ。その性癖は、後々六条御息所の執心と言う形で源氏を生涯に亘って苦しめるのだが、それも因果応報と言うものか。夕顔と初めて契る辺りは省略されていて、物足りないが、夕顔との関係の要点ではないと言うことか。やはり、物語にはメリハリが必要なのだろう。
2025年10月21日