
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)
この本の所有者
40人が登録
123回参照
2013年7月21日に更新
📝 レビュー (あおみさんのレビュー)
評価:
5/5
レビュー:
上下巻から成る「心」の物語は、片や静かに、片や驚きを残して幕を閉じた。
そう、この作品は「心」の物語だと思う。
心があるからもどかしく、辛く、傷ついたり傷つけたりする。しかし、こうした不完全さによって感じられるものがあることを忘れてはならない。
それは、喜びであったり嬉しさであったり信頼、信用、時には涙を流すことのできない哀しみであったりする。
「世界の終わり」の世界では、街にいる誰もが心を失くしている。その世界ではまず影を剥ぎ取られ、影が心と記憶を所有する。しかし、影の命はそう長くない。影が死んだ時、影の持ち主は完全に心を失くしある意味において平和の世界の住人と化す。
「僕」の影はそんな使命に嫌気が指し、「僕」を誘って「世界の終わり」から逃げ出そうとするが、「僕」はその世界を作ったのが自分だと気付き、そんな完全で完結している哀しい世界を作ってしまったという自身の過ちの責任を感じ、滞在することを決意する。心を完全に失くすことのできなかった人間は暗い森に住まなければいけないことを知っているのに…。
それでも愛と責任を取ったのだ。図書館の女の子の心を取り戻したように、「僕」には森の中から大佐や門番といった街中の人間に影響を及ぼし、彼らにも「心」という不完全で曖昧な素晴らしさを伝えて欲しい。
物語的な話に移ると恐らく「世界の終わり」と「ハードボイルドワンダーランド」の時系列は後が先なのだろう。
「HW」で「私」はボブディランを聞きながら自身の脳の核の世界へと意識だけを取り込まれて行く。それは脳からの目線で言えば不死であるし、あるいは「HW」という現実世界から見れば死であるが、「私」はとにかく静かにその定めを受け入れた。抗っても仕方がない。
もし私の認識が正しくて「私」が「僕」なのだとしたら、「世界の終わり」から脱出しなかったのは余程に図書館の彼女を愛していたのだろう。夢読みによって彼女の心の断片を見たとき、もしかしたら「僕」は自分が「私」だったときの記憶を垣間見たのかもしれない。そう、「ハードボイルドワンダーランド」での。
本書はとにかく構成が緻密にできている。2つの世界を交互に展開するという至難の業を見事に成せているのも感服するに値するのだが、目を見張るのはこの空想の物語を現実的に表現しているところであると思う。
「HW」での「私」がシャフリングで26人中唯一生き残った訳。そして博士が3つ目の思考回路をインプットした理由。そしてその第三回路が第一、第二の回路を上回って働き出しているという避けられない現実。「私」と「太った娘」の地底での冒険劇。これらが見事に読者の想像力を掻き立てながら描かれて行く。
それが読んでいて楽しくて仕方がなかった。
この一冊はもしかしたら生涯忘れられない一冊になるかもしれない。
そう思いながら、沢山の本が佇む本棚へと仕舞うことにする。
そう、この作品は「心」の物語だと思う。
心があるからもどかしく、辛く、傷ついたり傷つけたりする。しかし、こうした不完全さによって感じられるものがあることを忘れてはならない。
それは、喜びであったり嬉しさであったり信頼、信用、時には涙を流すことのできない哀しみであったりする。
「世界の終わり」の世界では、街にいる誰もが心を失くしている。その世界ではまず影を剥ぎ取られ、影が心と記憶を所有する。しかし、影の命はそう長くない。影が死んだ時、影の持ち主は完全に心を失くしある意味において平和の世界の住人と化す。
「僕」の影はそんな使命に嫌気が指し、「僕」を誘って「世界の終わり」から逃げ出そうとするが、「僕」はその世界を作ったのが自分だと気付き、そんな完全で完結している哀しい世界を作ってしまったという自身の過ちの責任を感じ、滞在することを決意する。心を完全に失くすことのできなかった人間は暗い森に住まなければいけないことを知っているのに…。
それでも愛と責任を取ったのだ。図書館の女の子の心を取り戻したように、「僕」には森の中から大佐や門番といった街中の人間に影響を及ぼし、彼らにも「心」という不完全で曖昧な素晴らしさを伝えて欲しい。
物語的な話に移ると恐らく「世界の終わり」と「ハードボイルドワンダーランド」の時系列は後が先なのだろう。
「HW」で「私」はボブディランを聞きながら自身の脳の核の世界へと意識だけを取り込まれて行く。それは脳からの目線で言えば不死であるし、あるいは「HW」という現実世界から見れば死であるが、「私」はとにかく静かにその定めを受け入れた。抗っても仕方がない。
もし私の認識が正しくて「私」が「僕」なのだとしたら、「世界の終わり」から脱出しなかったのは余程に図書館の彼女を愛していたのだろう。夢読みによって彼女の心の断片を見たとき、もしかしたら「僕」は自分が「私」だったときの記憶を垣間見たのかもしれない。そう、「ハードボイルドワンダーランド」での。
本書はとにかく構成が緻密にできている。2つの世界を交互に展開するという至難の業を見事に成せているのも感服するに値するのだが、目を見張るのはこの空想の物語を現実的に表現しているところであると思う。
「HW」での「私」がシャフリングで26人中唯一生き残った訳。そして博士が3つ目の思考回路をインプットした理由。そしてその第三回路が第一、第二の回路を上回って働き出しているという避けられない現実。「私」と「太った娘」の地底での冒険劇。これらが見事に読者の想像力を掻き立てながら描かれて行く。
それが読んでいて楽しくて仕方がなかった。
この一冊はもしかしたら生涯忘れられない一冊になるかもしれない。
そう思いながら、沢山の本が佇む本棚へと仕舞うことにする。
AIが見つけた似た本
「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)」の文章スタイル、テーマ、内容を分析し、 類似度の高い本を10冊見つけました
紅 (集英社スーパーダッシュ文庫)
片山 憲太郎
揉め事処理屋を営む高校生・紅真九郎のもとに、とある少女を守るという依頼が舞い込んできた。少女の名は、九鳳院紫。世界屈指の大財閥の御令嬢。詳しい事情を聞かされぬまま、真九郎は紫との共同生活を開始。彼女の...
6人
5
七つの黒い夢 (新潮文庫)
乙一
天使のように美しい顔をした私の息子。幼稚園児の彼が無邪気に描く絵には、想像を絶するパワーがあった。そしてある日―。乙一の傑作「この子の絵は未完成」をはじめ、恩田陸、北村薫、岩井志麻子ら、新感覚小説の旗...
19人
4

tresor_135@yahoo.co.jp
Lv.68
昔読んだ

moro
Lv.24
昔読んだ

巴槻
Lv.62
読了
あみか
Lv.54
昔読んだ

nana216
Lv.15
昔読んだ

アレンジ
Lv.120
昔読んだ
hetareguma@gmail.com
Lv.267
昔読んだ

えむえぬ
Lv.70
昔読んだ

zooko012
Lv.229
昔読んだ

snowtrooper
Lv.53
昔読んだ

yuki4x17
Lv.53
読了

kazuki
Lv.15
昔読んだ

ちゅん
Lv.37
昔読んだ

krn
Lv.30
昔読んだ

mana
Lv.56
昔読んだ

けい
Lv.29
昔読んだ

BookSniper
Lv.45
昔読んだ

Hiro316
Lv.221
昔読んだ

いしかり
Lv.7
まだ読んでない

yuji0613
Lv.52
昔読んだ

ひさこ
Lv.41
昔読んだ

artimo14
Lv.57
昔読んだ

yuiko
Lv.38
昔読んだ

あややん
Lv.39
読了

ryo
Lv.71
昔読んだ

aq
Lv.66
昔読んだ

nobki
Lv.106
昔読んだ

a.o
Lv.59
昔読んだ

あんご
Lv.80
読了

soyokaze
Lv.67
昔読んだ

まりっぺ
Lv.48
昔読んだ

stm185
Lv.66
昔読んだ

blsk
Lv.191
昔読んだ

きどこう
Lv.50
昔読んだ

そーよーそん
Lv.96
昔読んだ

あおみ
Lv.78
読了

may
Lv.62
読了

Kota
Lv.141
昔読んだ

soyokaze
Lv.67
読了

kaoruhanai
Lv.49
昔読んだ