
📝 レビュー (あおみさんのレビュー)
本書の感想からは少し離れるが、私が読書を趣味とするに至った経緯をここに。
この本の著者でもある湊かなえさんの『告白』を読んで私は凄まじい衝撃を受けた。ページを捲る手が止まらない体験をした初めての本がそれである。
すべて話し言葉で描かれており、内容も誰が救われる訳でもなく、個々人が自己満足のために走っている。しかし、どこか彼らを応援したくなるような、せめてその復讐だけは晴らさせてやってくれ、と願いたくなるような人物たち。
暗い話の中に微かな希望があるような物語を私は好んでいた。そこから著者の作品をいくつか読んだ。『少女』『夜行観覧車』しかし、いつまでも一人に拘っていては世界は広がらないと感じ、読書の幅を広げていった。その後、時が経ち本書『高校入試』が久々の私が読む湊かなえ作品となった。それだけに大きな期待を抱いていた。
ここから本書の感想を述べる。
物語は高校入試を舞台にして、色々な妨害行為、いわゆるモンスターペアレントの登場、ネット掲示板への漏洩など様々な問題に対して奔走する教師たちの真の姿を描く。
掲示板の最初に書かれた「入試をぶっつぶす!」が何を意味するのか、読者はその首謀者と真の目的を知ろうと話を読み進めて行く。
しかし、結末がピンとこないというのもあるが、この著者に望んでいる作品とは異なっていたというのが本書の評価を下げた最大の要因だと考える。
言ってしまえば、復讐を果たすべく大きな企みを持って行動するが、それが後にしてはならなかった行為だと気付き、反省する。しかし周りは、糾弾するでもなく仕方ないよ的な反応で慰める。そしてこれからは真面目に生きようと心を入れ替え、今日が人生の再スタートの日だなどと新たな希望を胸に抱いて物語の幕は閉じる。
こういった物語の進展には辟易した。
ありきたりだと思う。
『告白』の著者である湊さんにはこんな物語書いて欲しくなかった。
高校入試をたかが年に一度の行事としてしか認識していない教師たちの姿には、心底腹が立ったが『告白』で感じた暗い気持ちとは質が異なる。
語り手を変えていく書き方もさすが著者だと感じたが、頻繁に行われるため誰が誰だか分からなくなってしまう。
首謀者が外部の人間でなく教師だったという結末はよかったが(よかったというよりはそうでないとただの駄作となっていた)、いまいち目的と動機が理解できなかった。
これらの不満点と、さらなる期待を込めて本作の評価は星2つとする。
結末が異なると言われている本作のドラマは是非見たい。
無理矢理、結末を変えさせられたから本書は不十分に思えたのかもしれないから。
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