
📝 レビュー (ぼんぼんさんのレビュー)
筒井康隆は天才だな。
ああ、この言葉が消えてしまったからこんな会話なんだ、とか、
ここは本来こう描写するものだったんだ、とか、
気づくたびに「あ!そっか~」「そういえばそうやった…」とか
ついつい声に出してしまう、アハ体験的小説でした。
電車の中で読んでて、ちょっとしっぱい…
言葉が消失していくたびに、文体が変わるどころか「その人らしさ」まで
崩壊してしまうのには改めてビックリ。
ううん。それだけじゃない。
1語失うたびに、今までそこにいた人やそこにあったものが消えてしまう。
その残像を、まだある言葉の中で必死に形にしようとする。
その様が滑稽でもあり、切なくもありました。
忘れたことさえも忘れてしまったり、
意識しなければ通り過ぎてしまうものにあとから気づいたり、
もう二度と会えなかったり、
でも「そこにあった」という事実が重石みたいに胸にせまったり、
失うことを重ねるたびに、自己の内面に深く潜ったり。
最初は「すごい小説だな~」と単純に感心しながら読んでいたのだけれど、
いつのまにか、ちょっと人生をかみしめてました。
まさか筒井康隆でマジ泣きするとは思わなかったけど・・。
たった11個の言葉でつづられた散文詩みたいな主人公の人生(たぶん、筒井康隆の自伝的な)も、
ラストの一行も、切なくて泣きました。
どんなに美しい思い出話よりも、
どんなにドラマチックな人生を描いた小説よりも、
消えゆく言葉をかき集めためちゃくちゃなこの文章が、ずっと心に響きました。
はぁ。。。せつない。
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