
内容紹介

📝 レビュー (あおみさんのレビュー)
ただ、眩しいくらいに純粋だと感じた。決して、物事を悲観的に捉えるでも、楽観的に捉えるでもないのだが、他人を疑うことを知らない、また自分を疑うことも知らないのだ。
世界には「正義」が確固として存在しており、自分はそれを信じて行動しているから生きるに値する。けれど、たまには正義から逸れるのもしょうがないよね。というような非常に曖昧な信念のもとで日々、生きている。
周囲の目を気にして、つい格好の良い発言や行動をしてしまい、自分の首を絞めるという典型的な阿呆である。しかし、他人を責めつつも自分の非も素直に認める憎めない存在だ。
また、熊太郎は思弁と行動が伴わない点をコンプレックスとして抱いている。考えていることをすらすらと言葉にすることができず、ついつい言葉足らずになり相手から誤解を受ける。そして、自分を理解してくれる人はいないことに絶望し、世間に対して真っ直ぐに生きることを諦めるのだ。
上に挙げた、信念が曖昧である点と自分の思いや考えと行動が伴わず他人から理解されない点について私は読中、痛いくらいの共感を覚えた。
他人がすれば厭悪に感じる行動を自分がとってしまうのも時にはしょうがない。
なぜ相手はこんなに早とちりをしてしまうのだろう。
なんで自分はこんなにも勘違いされるのだろう。
そう言ったことを常日頃感じている私にとって熊太郎の存在は、救いとなった。
決して、真似をしたい生き方ではないが、強い憧れを感じていたことは事実である。
私には熊太郎にある愚直さはない。そのため、自分のしたいようにすることができずに、余計に世間に対して猜疑心を抱いてしまうのだ。
これまで読書をしてきて「救い」となった本に出会ったことはないのではないだろうか。
よく書評で見かける言葉であるが、小説に救われる感覚が理解できず、使い勝手の良い言葉だと感じていた。
しかし、本書は間違いなく「救い」である。自己の存在を認めてくれたのである。
どのシーンが印象的ということは特別ない。どの場面においても熊太郎が不器用に不甲斐なく生きており、身の回りの出来事に一喜一憂している様子が伺い知れる。
私は、今後何度も本書を書棚から取り出しては、パラパラとページを捲り、じっくり読むでもなく、熊太郎に会いに行くであろう。
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