書籍情報
- ページ数:
-
200ページ
- 参照数:
- 298回
- 更新日:
- 2015/07/12
- 所有者:
-
とくこさん
内容紹介

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📊 読書進捗 (とくこさんの記録)
真昼にこうしてふと思い出しても、泣かずにいられるようになったことが、妙にむなしい。果てしなく遠い彼が、ますます遠くへ行ってしまうように思える。
ライトの色が交差し、光の河が曲がってくる。信号が闇に明るく浮かぶ。ここで、等が死んだ。ひそやかに厳粛な気持ちが訪れる。愛する者の死んだ場所は未来永劫時間が止まる。もし、同じ位置に立てたなら、その苦しみも伝わるといいと人は祈る。
顔はあまり似ていなかったが、柊の手の指とか、ちょっとした時の表情の動かし方とかは、よく私の心臓を止めそうになった。
どうしても、自分がいつか死ぬということを感じ続けていたい。でないと生きている気がしない。だから、こんな人生になった。闇の中、切り立った崖っぷちをじりじり歩き、国道に出てほっと息をつく。もうたくさんだと思いながら見上げる月明かりの、心にしみ入るような美しさを、私は知っている。
私は読み終えて、手紙をもとのようにそっとたたんだ。えり子さんの香水の匂いがかすかにして、胸がきりきりした。この香りも、やがて、いくらこの手紙を開いてもしなくなってしまう。そういうことが、いちばんつらいことだと思う。
夢のキッチン。私はいくつもいくつもそれをもつだろう。心の中で、あるいは実際に。あるいは旅先で。ひとりで、大ぜいで、二人きりで、私の生きるすべての場所で、きっとたくさんもつだろう。
私は今、彼に触れた、と思った。一ヵ月近く同じ所に住んでいて、初めて彼に触れた。ことによると、いつか好きになってしまうかもしれない。と私は思った。恋をくると、いつもダッシュで駆け抜けてゆくのが私のやり方だったが、曇った空からかいま見える星のように、今みたいな会話の度に、少しずつ好きになるかもしれない。
透明にしんとした時間が、ペンの音と共に一滴一滴落ちてゆく。
それ、その健全さがとても好きで、あこがれで、それにとってもついていけない自分をいやになりそうだったのだ。昔は。
宗太郎は大声で言ったを彼のこの陽気な素直さを私は昔、本気で愛していたが、今はうるさいのですごく恥ずかしいだけだった。
祖母が死んで、この家の時間も死んだ。
「だから、そのソファーは、当分君のものだよ。君のベッドだよ。」彼は言った。「使い道があって本当に良かった。」「私。」私はかなりそっと言ってみた。「本当にここで眠っていいの?」「うん。」彼はきっぱり言った。
ソファーに戻ってすわると、熱いお茶が出た。ほとんど初めての家で、今まであまり会ったことのない人と向かい合っていたら、なんだかすごく天涯孤独な気持ちになった。雨に覆われた夜景が闇ににじんでゆく大きなガラス、に映る自分と目が合う。世の中に、この私に近い血の者はいないし、どこへ行ってなにをするのも可能だなんてとても豪快だった。こんなに世界がぐんと広くて、闇はこんなにも暗くて、その果てしない面白さと淋しさに私は最近初めてこの手で目で触れたのだ。今まで、片目をつぶって世の中を見ていたんだわ、と私は、思う。
ただ星の下で眠りたかった。朝の光で目覚めたかった。それ以外のことは、すべてただ淡々と過ぎていった。
📝 レビュー (とくこさんのレビュー)
吉本ばななは置いて行かれた人たちの悲しみの表現の幅が広い。
日常の中のさりげない一幕に悲しみが置かれてる。
そういった日々の描写の印象が強すぎて、話の本筋とかラストにそこまで思い入れが持てないのはいいのか悪いのか。
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