
内容紹介

📝 レビュー (あおみさんのレビュー)
関わったと言っても、決して事件の加害者や被害者といった意味合いではないというのが、本書の醍醐味であり、本書を賞賛する第一の点である。
その事件の容疑者を目撃した者や、その事件の噂を耳にした者、事件が発生したマンションに居を構える者などまさに多種多様である。
他にもマスコミの情報に翻弄される者たち、マスコミに構って欲しいがために情報をでっちあげる者たち、自身の感性を信じて容疑者の言葉に耳を傾ける者たちが登場する。
彼らは思い思いの視点で、考え方で、生き方で独自の見解を述べる。
本書の大枠としてはルポルタージュの体裁をとっている。身元の知れないインタビュアーが事件に関係する人たちに質問を投げかけていくのだ。そこで分かる彼らの考え方や生き方というものもあるが、所詮そういうのは取り繕ったものだ。人間は誰かに話をする際、自分を善く見せようとする癖がある。無意識に。勿論、私もその一人であるが。
従って、本書がこうした典型的なルポルタージュ形式のみで繰り広げられていたなら間違いなく本書は駄作となっていただろう。
本書が良作となった所以は、章によって俯瞰的視点から彼らの生活について物語られる章が用意されているからだ。そこで、私たち読者は容疑者であれば容疑者なりの、被害者であれば被害者なりの、また彼らの家族の考えや、人生を垣間見ることができる。
そうして、一つの事件に命が吹き込まれるのだ。
現実における事件も自身の人生からは切り離された言わば架空の物語である。そしてその物語において、感情は決して描かれない。日に日に判明していく事実だけをつらつらと書き綴った物語。それが現実における事件だ。
だから小説は面白いのだと思う。非現実な事件に参加することができるから。
そう言った意味で本書は極めて現実的な事件に、現実の事件では語られることのない感情や人生が絡み合っていたからとても面白かった。
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