📝 レビュー (あおみさんのレビュー)
評価:
5/5
レビュー:
初めに述べたいのは、本書の評価は5だということだ。それだけ先に言っておく。
そして本書の主人公、大庭久太郎の特異体質について触れておく。彼は幼い時から時間の反復を体験していた。彼はその現象を『「反復落とし穴」に落ちた』と表現している。その落とし穴にハマると、その日が9回繰り返され、最終周の出来事が決定版として定められ、明日へと移る。なお、その9周間の出来事は極力オリジナル版、つまり落とし穴にハマった当日の出来事に沿おうとする。大きく外れた事象というのは本来、起こり得ないと久太郎は説明する。しかし、そんな落とし穴にハマっている最中に祖父が自宅で死亡する。オリジナルの周ではそんな事件起こらなかったのに…。
まず題に惹かれ、後ろ書きを読んで、素直に面白そうだと感じた。先述した主人公の体質が良い意味で小説ぽくなく、そして王道のSF小説でもなく、さらにそこに本格ミステリが含まれているのであれば、これを読まない手はない。
果たして本書は私の期待を大きく上回ってくれた。
主人公久太郎の性格、事件の不可解さ、犯人が周毎に変わるという最大の謎、殺人事件という重さを感じさせない著者の文章力、しかし見せ所では寒気をも感じさせる。何から何まで全て辻褄が見事に合っており、また登場人物それぞれの個性も見事に確立されていて、読んでて楽しいことこの上なかった。
特に印象に残っている場面について。
久太郎がオリジナルでは起こらなかった2周目以降の祖父殺人事件の犯人を追って、来る日も来る日も(この場合は日ではなく、周なのか)考えられる犯人を隔離して事件の阻害を図るのだが、新犯人が現れ、そして祖父の死体が見つかる。6周目だったか、久太郎はそんな途方もない努力に嫌気がさし『何だがもう嫌になってきた』と消極的意見を口にする。
これには思わず噴き出した。
そりゃ誰も知らない時間の反復の中で、それほど深い関係でもない祖父の死という時間反復の齟齬を除外しようとしているのに、毎周違う誰かが現れ、結果祖父が死んでしまうのでは、飽き飽きしてしまっても仕方がない。
私はここで、主人公に激しく共感を覚え、彼を励ます決意をした。
そして幼い頃から時間の反復を経験している久太郎の人間性にも惹かれた。この「反復落とし穴」は一月に3〜4回の頻度で発生するそうだ。つまり、彼は高校一年生、若干16歳にしてほぼ倍の年月を生きていることになる。つまり、実年齢(この表現が言い得ているのかは分からない)は30歳を超えている。その所為あってか、彼の話し方、佇まい、趣味はどれも老けてみえる。
16歳とは思えない程、物腰が落ち着いているというか、何だが達観している様子さえ伺える。
しかし、そんな彼も失恋には相当応えるそうだ。他人から見れば、自殺しかねない表情になり周囲に一種の緊張と大きな不安を与える程、暗澹とした心持ちになる。(後に、失恋でなかったことが発覚するのだが、久太郎は大きな勘違いをしていて気付かない)
これが16歳の心なのか、30歳を超えた大人の心情なのか、22歳の私には区別がつかないが、とにかく私は彼のことが好きである。
ここでは割愛させていただくが、勿論他の登場人物の個性も本当に色濃い。
誰一人とっても物語が作れそうな気配さえ感じられた。
もう一つの印象に残っている場面は、やはりラストである。
大団円を遂げたように見えた「反復落とし穴」には、それこそ大きな落とし穴が隠されていた。
主人公目線で語られる本書だからこそ、読者もその謎の発見に恐怖さえ感じる。「あれ?そんなはずはない」とこれまで共に歩んできた久太郎と気持ちを共有する。
真相を明かされる度、久太郎が顎が外れる思いを抱えたのと同じく、私も何も考えられず目を瞬くだけだった。
しかし、この真相が素晴らしい。ただのこじつけでもなく、「反復落とし穴」を体験できるのが主人公だけではなかったというお粗末なものでもなく、しっかり読み返せば巧みな伏線の存在に気付ける。
これには本当に恐れ入った。
「なるほど」と何回口にしたか分からない。
そして、最後に久太郎が報われた著者の計らいに私は最大の感動を覚えた。
私は読書歴が浅いことから、著者の作品を手に取ったのは本書が初めてである。
「SF新本格の雄」と称される著者は本書の他にも、SFとミステリを融合させた様々な傑作を世に放っている。
是非、機会があれば一読したいと思う。
そして本書の主人公、大庭久太郎の特異体質について触れておく。彼は幼い時から時間の反復を体験していた。彼はその現象を『「反復落とし穴」に落ちた』と表現している。その落とし穴にハマると、その日が9回繰り返され、最終周の出来事が決定版として定められ、明日へと移る。なお、その9周間の出来事は極力オリジナル版、つまり落とし穴にハマった当日の出来事に沿おうとする。大きく外れた事象というのは本来、起こり得ないと久太郎は説明する。しかし、そんな落とし穴にハマっている最中に祖父が自宅で死亡する。オリジナルの周ではそんな事件起こらなかったのに…。
まず題に惹かれ、後ろ書きを読んで、素直に面白そうだと感じた。先述した主人公の体質が良い意味で小説ぽくなく、そして王道のSF小説でもなく、さらにそこに本格ミステリが含まれているのであれば、これを読まない手はない。
果たして本書は私の期待を大きく上回ってくれた。
主人公久太郎の性格、事件の不可解さ、犯人が周毎に変わるという最大の謎、殺人事件という重さを感じさせない著者の文章力、しかし見せ所では寒気をも感じさせる。何から何まで全て辻褄が見事に合っており、また登場人物それぞれの個性も見事に確立されていて、読んでて楽しいことこの上なかった。
特に印象に残っている場面について。
久太郎がオリジナルでは起こらなかった2周目以降の祖父殺人事件の犯人を追って、来る日も来る日も(この場合は日ではなく、周なのか)考えられる犯人を隔離して事件の阻害を図るのだが、新犯人が現れ、そして祖父の死体が見つかる。6周目だったか、久太郎はそんな途方もない努力に嫌気がさし『何だがもう嫌になってきた』と消極的意見を口にする。
これには思わず噴き出した。
そりゃ誰も知らない時間の反復の中で、それほど深い関係でもない祖父の死という時間反復の齟齬を除外しようとしているのに、毎周違う誰かが現れ、結果祖父が死んでしまうのでは、飽き飽きしてしまっても仕方がない。
私はここで、主人公に激しく共感を覚え、彼を励ます決意をした。
そして幼い頃から時間の反復を経験している久太郎の人間性にも惹かれた。この「反復落とし穴」は一月に3〜4回の頻度で発生するそうだ。つまり、彼は高校一年生、若干16歳にしてほぼ倍の年月を生きていることになる。つまり、実年齢(この表現が言い得ているのかは分からない)は30歳を超えている。その所為あってか、彼の話し方、佇まい、趣味はどれも老けてみえる。
16歳とは思えない程、物腰が落ち着いているというか、何だが達観している様子さえ伺える。
しかし、そんな彼も失恋には相当応えるそうだ。他人から見れば、自殺しかねない表情になり周囲に一種の緊張と大きな不安を与える程、暗澹とした心持ちになる。(後に、失恋でなかったことが発覚するのだが、久太郎は大きな勘違いをしていて気付かない)
これが16歳の心なのか、30歳を超えた大人の心情なのか、22歳の私には区別がつかないが、とにかく私は彼のことが好きである。
ここでは割愛させていただくが、勿論他の登場人物の個性も本当に色濃い。
誰一人とっても物語が作れそうな気配さえ感じられた。
もう一つの印象に残っている場面は、やはりラストである。
大団円を遂げたように見えた「反復落とし穴」には、それこそ大きな落とし穴が隠されていた。
主人公目線で語られる本書だからこそ、読者もその謎の発見に恐怖さえ感じる。「あれ?そんなはずはない」とこれまで共に歩んできた久太郎と気持ちを共有する。
真相を明かされる度、久太郎が顎が外れる思いを抱えたのと同じく、私も何も考えられず目を瞬くだけだった。
しかし、この真相が素晴らしい。ただのこじつけでもなく、「反復落とし穴」を体験できるのが主人公だけではなかったというお粗末なものでもなく、しっかり読み返せば巧みな伏線の存在に気付ける。
これには本当に恐れ入った。
「なるほど」と何回口にしたか分からない。
そして、最後に久太郎が報われた著者の計らいに私は最大の感動を覚えた。
私は読書歴が浅いことから、著者の作品を手に取ったのは本書が初めてである。
「SF新本格の雄」と称される著者は本書の他にも、SFとミステリを融合させた様々な傑作を世に放っている。
是非、機会があれば一読したいと思う。
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