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光媒の花 (集英社文庫)

光媒の花 (集英社文庫)

道尾 秀介

この本の所有者

10人が登録
253回参照
2014年9月15日に更新

書籍情報

ページ数:
296ページ
参照数:
253回
登録日:
2014/07/18
更新日:
2014/09/15

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内容紹介

一匹の白い蝶がそっと見守るのは、光と影に満ちた人間の世界―。認知症の母とひっそり暮らす男の、遠い夏の秘密。幼い兄妹が、小さな手で犯した闇夜の罪。心通わせた少女のため、少年が口にした淡い約束...。心の奥に押し込めた、冷たい哀しみの風景を、やがて暖かな光が包み込んでいく。すべてが繋がり合うような、儚くも美しい世界を描いた全6章の連作群像劇。第23回山本周五郎賞受賞作。
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📝 レビュー (とくこさんのレビュー)

評価:
3/5
レビュー:
ひとつひとつの話は独立しているけれど、話の繋ぎや、端々で繋がっていく連作短編集。
この繋ぎ方や、関わり方がとても自然で話を邪魔しない。特に隠れ鬼から虫送りの流れるような繋ぎがすき。
もうひとつ、連作短編集として象徴するのがすべての話を横切っていく白い蝶。

群像劇とは違う、物語の中でバトンを繋げていくような話は他の話で出てきた人物を全く違う視点から魅せてくれて、物語の人々はそれぞれに考えて、それぞれの視点の中で生きているのだと、人間の多面性を見せてくれた。

6つの短編はどこか「どうしようもなさ」を様々な形で孕んでいて、とても苦しい展開の中でもずどん、と落とされるのではなく白い蝶と一緒にふわふわと攫われていく。
それがどうしようもない、という気持ちを大きくする時もあれば、優しさに感じる事もある。

特にどうしようもなさに陥った話は最後の「遠き光」で一応の解決を見る。
隠れ鬼の親子は今の環境もあってか、印象深く残った。

最後の締めは少し言葉多く、邪魔な気もした。
それまでが感傷に浸るような引きだったから、最後ももう少し言葉の余韻に浸りたかった。

読書履歴

2014/09/15 296ページ
2014/09/15 275ページ 反射的に声を止めた。何も言わないでくれと、店主の目が訴えていた。 「お父さんが優しいからなのかもね。お父さんが、ほんとの娘みたいに可愛がってるから、相手も安心するのかもね。べつにほんとの娘じゃないって決まったわけじゃないけどさ。あたしの新しいお父さんも、あんな---」
2014/09/15 262ページ 老婆には、あの枝の先にアカトンボが見えているのだろうか。彼女を負ぶった男性は、歌の一節一節にそっとうなずきながら、やはり同じところをぼんやりと見つめていた。
2014/09/15 258ページ 「先生、ごめんなさい。迷惑かけて」 くぐもった返事があった。その声が、能力以上のことをやらせようとしてごめんなさいと、わたしには聞こえた。鼻の奥にじわりと痛みが走った。時岡さんと朝代---ずっと年配と、ずっと年少の二人から、わたしは同時に無力を指摘され、同時に諦められたのだった。
2014/09/15 219ページ 母の絵を、もう一度見やる。カタツムリの悪戯のせいで、たったいま自分の咽喉もとに込み上げた感情を思い返す。泣いている母を見て、瞬時にわいたあの強い感情。 あれは紛れもなく謝罪の気持ちだったのでははかったか。涙を流す母に見つめられ、胸の中が申し訳なさでいっぱいになり、もう少しで絵の母に向かって頭を下げ、ごめんなさいと口にしてしまうところではなかったか。
2014/09/15 198ページ 「風媒ってほら、風に媒介の媒。風が花粉を運ぶ花のこと。風媒の花は、綺麗な外見をしてる必要がないの。だって、わざわざ自分を飾って虫を集める必要がないでしょう?風は、べつに綺麗な色とか目立つかたちに惹かれて吹くわけじゃないんだから」
2014/08/16 126ページ 赤色灯が周囲の景色を断続的に照らし、まるでその一帯すべてが、追い詰められた一個の心臓となって鼓動しているようだった。
2014/07/24 24ページ 口の中に、勢いよく魚が泳ぎ込む感触があった。生温かいその魚は、全身をくねらせて私の中を泳ぎ回った。何が起きているのか、私にはわからなかった。頬骨のあたりに、あの人の鼻が何度か触れた。唇や舌は熱いのに、あの人の鼻は冷たかった。
2014/07/23 18ページ だから、靄った視線の先に、薄紙でも剥いでいくようにあの人の姿が見えてきたとき、私は思わず立ち止まっていた。

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