
内容紹介

📝 レビュー (あおみさんのレビュー)
その愛は、殺人という行為だった。
拠り所をユリゴコロと聞き違えた幼き少女は、命を奪い、一人の人間の世界を壊すという行為の残酷さや、非情さを知ることなく、ただその行為を繰り返すことで存在を保っていた。腐った毎日に意義を見出していたのだ。彼女にとっては行為そのものが心の拠り所であり、拠り所を愛だとするならば、彼女の中で殺人は紛れもない愛なのである。
私は彼女のこの考えに気付いたとき、特に違和感を抱くことはなかった。ただ純粋に新しい愛の形を知り、興味深さを感じただけだった。歪んでいるということは感じたが、思えば恋愛や馴れ合いの感情だけを愛だとすることも歪んでいるのではないだろうか。
従って本書で現れる、人を殺すことで愛を感じられるといった歪んだ人生を綴った生々しい手記は非情に面白かった。
極めて無垢に人を殺していた少女が世界を知り、自己の罪を知り、償いたいと感じ、他人からの好意に縋り、最期を受け容れていく様子が具体的に、そして感傷的に描かれており、自然と目が後を追った。
しかしその手記以外の、言わば現在の物語にはあまり興味を感じることはなかった。
ありきたりな展開で、特に凄惨な場面も、悲嘆的な場面もなく、ただ物語が始まり、収束したような感じだった。
同じ仕事場の女性が本物の母親という展開にはやや鳥肌が立ったが、それを感じさせる点が作中において少なかったために小説としては魅力的な点ではなかった。
どんなに気を違えていても人は愛を求めているということを新しく知ったのか、改めて認めたのか分からないが、何だが嬉しい思いになった。
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