内容紹介

📝 レビュー (あおみさんのレビュー)
先に断っておくが、本書は間違いなく傑作である。非常にスリリングで疾走感があり、ページを捲る手を止めさせない著者の技巧がそこにはある。したがって間違いなく「面白い」のである。
しかし「面白い」本がいつも人を「楽しませる」とは限らない。
人間の屑を護送する任務を与えられたSPである銘苅は、その任務の必要性に疑問を抱きながらも遂行しようとする。しかし、その中で目の当たりにするのは、自分が自分以外を信じていないという気持ちである。周囲に疑いばかりをかけ、牽制を常にとる。それが原因で後輩に涙を流させてしまう。
やるせない気持ちとはこのことだろう。
そして、屑である清丸と行動を共にする内、清丸が母親のことを発言し、少し人間味を感じたところで、清丸が世話になったタクシー運転手の女性を殺害する。
もうこのとき銘苅には任務など頭になかった。
ーもう、どうでもいい。
他人に対する信用を失くし、他人からの信頼も失い、再び愛せそうな人をも亡くしてしまった。
この一冊によって、カネの力の強大さと言うものを改めて感じた。
大金を積めば、一般人を人殺しに化けさせることができる。
大金を積めば、人の心を潰すことも孤立させることもできる。
それに抗えるのは、復讐という負の感情だけである。清丸による一人目の被害者の父親が、最後に10億という懸賞金とは関係なしに、清丸を刺しにきた。
しかし、極めてマイナスなこの感情による行動が正しいものであったかはわからない。理解はできるが、正解ではないだろう、と思う。
とにもかくにも、本書は良書であるのだ。それは決して間違いはない。
しかしそれは「面白い」小説として勧めるのであって、「楽しめる」小説では到底勧められない。
この一冊は、
人を悲しく、寂しくさせる。
そして怒らせる。
人の心に重くのしかかる小説であった。
ネタバレ
十歳にも満たない女の子を陵辱し、暴行し、強姦し、殺害した「人間の屑」である清丸国秀に十億という懸賞金がかけられた。しかし、大金を積めば人殺しも可能と思われては、警察の名が廃る。そこで清丸には2人のSPと三人の警護官が当てられた。福岡から東京への移送で幾人もの狂人を目にし、あらゆる人物に疑いをかけた結果、銘苅は後輩を失い、仲間を失った。
そして清丸に情が湧きつつあった頃、屑としての本性を見ることになる。
自分は一体何の為に命を張ってきたのか。
これが正しいことだったのか。
答えの分からないまま、清丸を引き渡し銘苅の任務は終わった。
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