
内容紹介

📝 レビュー (あおみさんのレビュー)
明らかに怪しい人物を幾人か用意し、主人公も読者もこいつが犯人で決まりだろう。あとは正体を暴くだけだ、と意気込む。しかし、その調査を行うに連れ、その人物が真犯人でない証拠ばかりが現れる。では、誰が。いくつかの証拠からまた違う犯人「らしき」人物が浮かび上がる。今度こそ…。しかし違う。本書はこうした流れの繰り返しである。それでは飽きがきそうなものだが、読者は既に物語に参加しているためそれまでの考え、推論が正しいと思い込む。それは実に自然だからである。
加筆、改稿をしているとは言え、これが著者の処女作とは俄に信じ難い。いや、もしかしたら第一作だからこそ意気込んで考えに考え抜いたのかもしれない。
人物像、それぞれのジレンマ、悩み、恋愛の縺れ、トリッキーな真相、伏線。練りに練った結果の作品だろうと思う。
全ての出来事への理由、裏付けが用意されていて、どれもがこじ付けには思えない。だからこそ、本心から憎い人物だと思えたり、不憫、可哀想だと感情を多いに移入してしまう。
とにかく本書を「幻の傑作」として置くのは実に勿体ない。本書は「幻の」.などではなく「真の」傑作である。
ネタバレ
高校の同級生の三人組、喜多(キタロー)竜見(ジョージ)橘は期末試験の問題用紙を事前に奪おうと計画を立てていた。それこそが「ルパン作戦」である。その計画を実行して4日目、いつも用紙が隠されていた金庫にぐにゃりとした死体があった。それは英語教員の嶺舞子(グラマー)だった…。一体誰が?そのとき隣の部屋から逃げ出す影が見えた。その人物こそが犯人だと感じ、自分たちなりに捜索するが一向に姿は掴めず、時効間近の15年の歳月が過ぎた。
真相はこうだ。
嶺舞子はレズビアンであった。しかもレイプ紛いの行為に興奮を覚える性癖を持つ。そんな彼女の獲物に選ばれた音楽教員の小高鮎美は日頃からプライベートでの付き合いもあった為、事件当日の校長室への呼び出しにも従った。しかし、迫られた際に拒絶の思いを込めて突き飛ばす。すると打ち所が悪かったのか嶺舞子が死んでしまい、当日恋仲の関係にあった橘に泣きながら相談する。頭のきれる橘は「ルパン作戦」の中で死体を発見し、自殺に見せ掛ける案を閃き、実行する。
その裏で校長は自分の隠し子にあたるケイという生徒の成績を高く保つため、自ら名乗り出した嶺舞子にテストの解答を手渡し協力を仰いでいた。しかし実は嶺舞子は解答をちらつかせケイの身体を弄んでいた。事件当日、毎度の通り試験の解答を渡すから家に来いと言われ、嫌々ながらも一度上がった成績を下げるわけにもいかないケイは家に向かう。しかし夜中になっても帰って来ない嶺舞子を不審に思い、校長なら知ってるのではないかと電話をかける。校長からしたら教員に試験の解答を渡していたことが明るみにでたら自分の立場が危険だと思い、その電話を期に嶺舞子への手渡し場所であった一室に潜り込む。そうして喜多たちと遭遇し(顔は見られていない)、部屋の窓から逃げ出した。
学校に住み込み、盗聴を趣味とする金子茂吉という理科教員がいた。その人物に日高鮎美は嶺舞子との校長室での出来事を知られ、身体を弄ばれる。その屈辱と怒りから橘とは距離をあけ、学校も無断で辞め、疎遠となる。また喜多、竜見、橘の三人も事件の終焉を期に疎遠となった。
しかし、嶺舞子は死んでいなかった。ここで、かの有名な三億円事件が絡んでくる。この事件の最大の容疑者とされていた内海一矢は喫茶店ルパンのオーナーだ。彼は盗んだ内で番号が割れている札を嶺舞子が入れられていた金庫に細工を施し、隠していた。三億円事件の時効が成立し、その札の回収に赴いたところで橘による嶺舞子の自殺工作を目撃するが、二階から落とされた嶺舞子は辛うじて生きていた。彼女が意識を取り戻し金庫に入れられていたことを警察に告げると、金庫は隈なく調べられ自分の犯行も露呈される。これでは危険だと思い、瀕死の嶺舞子を担ぎ四階から落とした。
これが本事件の真相である。
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