
内容紹介

📝 レビュー (あおみさんのレビュー)
この一冊がSF大賞を受賞することなく、もしくは受賞したという事実を知らないまま読んだとしたら、私は本書をSF小説だと断言できなかっただろう。それほどまでにリアリティがあり、緻密に内容が織り込まれ、読者の想像心を沸き立たせる。読中幾度となく目を閉じ、そこに広がる惨状、日常、感情を思い浮かべたことだ。もし本当にこの科学技術が確立されたとしたら戦争が起こってしまうのではないか、もし本当にこんな便利すぎる世の中になってしまったら人殺しが日常茶飯事になってしまうのではないか、私は本書を読んでいる間恐怖を感じなかったことはなかった。ジョン・ポールは自身の言語研究から虐殺を導くある文法を見つけ出した。もし本当にこんな文法があったとしたら…
しかし、物語として充分に楽しめたことも書かなくてはならない。主人公は国家の暗殺部隊の一員で、所謂プロであるのに、恋心によって自身の立場をあやふやに感じる。また、科学技術が発展した結果、この殺人は自分の感情なのか、どうすれば罪を償えるのか、赦してもらえるのかを常に考える。そういう言わば、生の思想が感じられ共感できた。また敵対する男にも罪があり、それは赦されざれないと理解していた。その罪とはサラエボテロの際に本人は不倫中で、妻と子を愛人の膣に浸っている間に失ったというものだ。その後、先ほど記した虐殺の文法を見つけ出し、9.11のようなテロを二度とアメリカにさすまい、愛人が住むアメリカだけは多数の犠牲を払ってでも抑えてみせる、とテロを仕掛けてくる危険性を孕んでいると考えられる発展途上国に赴き、その文法を用いて話し、書に記し、広告として流した。なんと悲しく、稚拙な考えだろうか。しかし、人を愛するという気持ちはやはりこうまで人の考えを極端にさせるものなのだと再認識した。
最後に主人公がジョン・ポールの残した虐殺器官(ルツィア曰く言葉は器官)を使って虐殺を行ったのか、主人公はなぜ母親の物語の中で主人公となり得なかったのかなど疑問は残るが、不思議とそれはそういうものなのだと納得?できる。私なりの考えを言えば、最後に主人公が虐殺を起こしたのはジョン・ポールとほぼ同じ理由ではないか。そこに「テロを未然に防ぐ」という考えはないが、ルツィアが生きていた世界を何者にも壊させないと思ったのではないか。またしても人を愛する気持ちは人を狂わせる。そして狂っていることを本人は大体が知ることはない。
とにもかくにも良い一冊だった。
読書履歴
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