📝 レビュー (餼羊軒さんのレビュー)
本書は近代科学の還元主義的手法の限界を指摘し、又気象学・数学・生物学等の複雑系の諸現象を説きて、其特性は自然科学の諸処に観察し得ることを論ずる書なり。
セル・オートマトンに於るセルの生存や、遺伝子間の相互作用は、無秩序に陥る寸前の「カオスの縁」こそ最も活然たれ、と云ふは示唆に富めれば人文学者の挙りて持囃すも宜なるかな。
◽️不正確大要
本書は、従前の「近代のパラダイム」(還元論)の限界を指摘し、カオス・フラクタル等の、生命の謎を解明する「複雑系」の科学が「第二の科学革命」を担ふと論じてゐる。著者は嘗て、物事を細かく分析すれば全ての謎が解明し得ると信じてゐたが、現代科学の扱ふ事象の大部分が「非線形」であり、人類が解読したのは其極一部に過ぎないと云ふ事実を知り、衝撃を受けたと云ふ。近代のパラダイムは、ガリレイやニュートンの確立した、現象を単純化し本質を抽出する手法(還元論)に依り、物理学等の分野で大なる成功を収めた。
然し、此パラダイムは複雑な現象を前に破綻する。其最初の証拠が、気象学者ローレンツが発見した「バタフライ効果」である。是は、初期条件の僅差が結果に予測不可能なる大差異を齎す現象であり、「カオス」と称ばれ、決定論的システム(時計仕掛けの宇宙)の常識を根底より覆した。
第二の証拠は、「フラクタル」構造の発見である。コッホ曲線等のフラクタル図形は、部分が全体と相似である自己相似性を持ち、従来の幾何学では扱ひ得ない非整数次元を持つ。フラクタルは、幾ら拡大すとも複雑さが維持せられることを示し、複雑なる現象は小なる要素に分解することで単純になると云ふ還元論の基本的前提を否定した。
更に、コンウェイが考案した「ライフゲーム」の類のセル・オートマトンは、極めて単純なる決定論的規則より、予測不可能なる複雑パターンが「創発」する機序を示す。ラングトンは、此複雑で創造的なる振舞が、秩序とカオスとの境界なる「カオスの縁」と云ふ狭小の領域で発生することを特定した。
複雑系科学が目指す最大の謎は「生命」である。DNAが生命の設計図であると云ふ従前の生命観は、①DNAが細胞内物質と相互作用することで初めて機能すること、②又細胞内では各要素が並行的に相互作用する「混沌」に見える状態であること、が明らかになり、其限界が露呈した。カウフマンの研究は、生命が無作為なる分子の相互作用(自己触媒ネットワーク)より、カオスの縁で創発的に誕生した可能性を強く示唆する。
原子の領域は「エルゴード的」(系は時間とともに取り得る全ての状態を遍歴する)であるが、生命を形作る複雑なる分子の領域は「非エルゴード的」であり、可能なる構造の殆どが未だ出現してゐない。非エルゴード的世界では、進化は法則に基づいた演繹的予測をし得ず、偶発的出来事(外適応)が駆動する歴史的なる推移となる。生命は物理学の法則に従ひつつも、物理学を超江た非エルゴード的存在である。生命圏は、予測不可能なる方向に「隣接可能領域」(一段階に到達可能なる未踏の領域)を継続的に拡大してゆく。
経済や歴史・社会も亦、カオスの縁で創発を通じて活力を維持し、隣接可能領域を拡張し続ける複雑系である。複雑系の科学は未だ発展途上なれども、其知見は、人類社会が直面する課題を克服し、平和にして豊穣なる未来を築く為の礎となることが期待せられる。複雑系の科学は、還元論を超越し、世界を理解する為の新たなる視点と希望とを提示する。
読書履歴
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◽️雑感
本書は近代科学の還元主義的手法の限界を指摘し、又気象学・数学・生物学等の複雑系の諸現象を説きて、其特性は自然科学の諸処に観察し得ることを論ずる書なり。
セル・オートマトンに於るセルの生存や、遺伝子間の相互作用は、無秩序に陥る寸前の「カオスの縁」こそ最も活然たれ、と云ふは示唆に富めれば人文学者の挙りて持囃すも宜なるかな。
◽️不正確大要
本書は、従前の「近代のパラダイム」(還元論)の限界を指摘し、カオス・フラクタル等の、生命の謎を解明する「複雑系」の科学が「第二の科学革命」を担ふと論じてゐる。著者は嘗て、物事を細かく分析すれば全ての謎が解明し得ると信じてゐたが、現代科学の扱ふ事象の大部分が「非線形」であり、人類が解読したのは其極一部に過ぎないと云ふ事実を知り、衝撃を受けたと云ふ。近代のパラダイムは、ガリレイやニュートンの確立した、現象を単純化し本質を抽出する手法(還元論)に依り、物理学等の分野で大なる成功を収めた。
然し、此パラダイムは複雑な現象を前に破綻する。其最初の証拠が、気象学者ローレンツが発見した「バタフライ効果」である。是は、初期条件の僅差が結果に予測不可能なる大差異を齎す現象であり、「カオス」と称ばれ、決定論的システム(時計仕掛けの宇宙)の常識を根底より覆した。
第二の証拠は、「フラクタル」構造の発見である。コッホ曲線等のフラクタル図形は、部分が全体と相似である自己相似性を持ち、従来の幾何学では扱ひ得ない非整数次元を持つ。フラクタルは、幾ら拡大すとも複雑さが維持せられることを示し、複雑なる現象は小なる要素に分解することで単純になると云ふ還元論の基本的前提を否定した。
更に、コンウェイが考案した「ライフゲーム」の類のセル・オートマトンは、極めて単純なる決定論的規則より、予測不可能なる複雑パターンが「創発」する機序を示す。ラングトンは、此複雑で創造的なる振舞が、秩序とカオスとの境界なる「カオスの縁」と云ふ狭小の領域で発生することを特定した。
複雑系科学が目指す最大の謎は「生命」である。DNAが生命の設計図であると云ふ従前の生命観は、①DNAが細胞内物質と相互作用することで初めて機能すること、②又細胞内では各要素が並行的に相互作用する「混沌」に見える状態であること、が明らかになり、其限界が露呈した。カウフマンの研究は、生命が無作為なる分子の相互作用(自己触媒ネットワーク)より、カオスの縁で創発的に誕生した可能性を強く示唆する。
原子の領域は「エルゴード的」(系は時間とともに取り得る全ての状態を遍歴する)であるが、生命を形作る複雑なる分子の領域は「非エルゴード的」であり、可能なる構造の殆どが未だ出現してゐない。非エルゴード的世界では、進化は法則に基づいた演繹的予測をし得ず、偶発的出来事(外適応)が駆動する歴史的なる推移となる。生命は物理学の法則に従ひつつも、物理学を超江た非エルゴード的存在である。生命圏は、予測不可能なる方向に「隣接可能領域」(一段階に到達可能なる未踏の領域)を継続的に拡大してゆく。
経済や歴史・社会も亦、カオスの縁で創発を通じて活力を維持し、隣接可能領域を拡張し続ける複雑系である。複雑系の科学は未だ発展途上なれども、其知見は、人類社会が直面する課題を克服し、平和にして豊穣なる未来を築く為の礎となることが期待せられる。複雑系の科学は、還元論を超越し、世界を理解する為の新たなる視点と希望とを提示する。