
内容紹介

📝 レビュー (あおみさんのレビュー)
中学生という青春の頭の時代を全力に生きる少年少女の葛藤や、自尊心、友情、恋心、嫉妬を見事に描いた。
彼らはこのどれもが初めての感情で、ましてや上述した表現を持ち合わせていることすら知らずに、ただひたむきに自身の心と向き合おうとする。
不器用に、そして大胆に。
そして決してそんなことはないのに、自分だけがこの世界において特別で、周りとは違っているんだという歪んだ感性を持ちながら。
あの年齢にとって両親の裏切り(それは裏切りと表現するには、言葉の威力が強大すぎる感が否めないが、少年はそう感じただろう)は鋭く、そしてとても深く、彼らの心に傷を残す。
その痛みが成長を与えてくれるとも露知らず、彼らの心は酷くヤツれ、己の心の在り場所を求めながら他人を蹴落とすのだ。
そんな少年少女の心の成長を本書は見事に描いた。そう、直木賞を獲得するぐらい見事に。ただ、それは見事なだけだった。
評価するにあたって、何か他の類似作との違いや、アイデンティティを探したが、一向に見当たらない。
例えるなら、本作は真四角の正方形である。
どうみても整っており、所謂模範的な四角形であるのに対し、個性の出てるひし形や平行四辺形は形が多少歪であるのに対し、印象に残りやすい個性というものが生きている。
本書には正しく「個性」がなかった。
ただひたすらに、模範的な青春の葛藤を描いたストーリーが続いて、続いて、続いて、幕を閉じる。
著者の作品はこれで四作目だが、「片眼の猿」以来の衝撃を再び、期待する。
読書履歴
AIが見つけた似た本
「月と蟹 (文春文庫)」の文章スタイル、テーマ、内容を分析し、 類似度の高い本を10冊見つけました
石の猿 下 (3) (文春文庫 テ 11-12)
ジェフリー・ディーヴァー
冷酷無比の殺人者“ゴースト”は狡猾な罠をしかけ、密航者たちのみならずライムの仲間の命をも狙う。愛する者たちを守るには、やつに立ち向かうしかない。真摯に敵を追う中国人刑事ソニーの協力も得、ライムはついに...
6ステイン (講談社文庫 ふ 59-9)
福井 晴敏
愛する男を待ち続ける女、隠居した天才的スリ、タクシー運転手として働きながら機が満ちるのを待った工作員。心に傷を持ちながら、独り誇りを抱き続けた者たちの消せない染み。あきらめることを知らない6つの魂が、...
川の深さは (講談社文庫)
福井 晴敏
「彼女を守る。それがおれの任務だ」傷だらけで、追手から逃げ延びてきた少年。彼の中に忘れていた熱いたぎりを見た元警官は、少年を匿い、底なしの川に引き込まれてゆく。やがて浮かび上がる敵の正体。風化しかけた...