📝 レビュー (餼羊軒さんのレビュー)
本書は平成12年に大和書房より刊行せられた『アインシュタインの宿題』の改題増補なり。内容は特殊相対性理論・質能等価・一般相対性理論・ブラックホール等の定番の占むる所にして、平易明快なる筆致は科学雑誌「ニュートン」を想起する風あり。宇宙物理学の射程の宏遠なるに目眩めく心地ぞする。
著者曰く、ニュートンの宇宙は静止した「死んだ世界」であったのに対し、アインシュタインの一般相対論は、動的に変化する「生きてゐて進化する世界」を明らかにした。従来の宇宙観が混沌より秩序への変化を表象したのに対し、現代の宇宙観では、光に満ちたビッグバンより始まった宇宙が、秩序(構造)無き様より、銀河や星・生命と複雑なる構造を形成する「渾沌」へと変化してきた、と云ふ真逆の表象を表してゐる、と。是はコペルニクス的転回に匹敵する大転換であると、従前の理論との対比を際立たせて其意義を語れり。
◽️不正確大要
本書は、相対性理論に就て、現象(何が起こるか)のみならず、何故其が起るかと云ふ根源的部分を、複雑なる数式を使はず、常識的思考の変革として基礎的・初等的に説明することを目指してゐる。
アインシュタイン以前、ニュートン力学は絶対的時間と絶対的空間とを不変の枠組としてゐた。是に対し、特殊相対論は「光速度不変の原理」(光の速さcは誰より見ても常に一定である)と「特殊相対性原理」(自然法則は静止してゐる人にも動いてゐる人にも同様に成立つ)の二つを柱とする。此理論により、時間と空間とは独立したものではなく、柔軟に変化する「四次元時空」として統一せられた。其結果として、観測者に依て同時性が異なって見える「同時刻の相対性」や、高速で移動する物体内の時間が遅延する「時間の遅れ」(ウラシマ効果)と云った、日常的感覚よりは想像し難い現象が導かれる。又特殊相対論の最も有名なる結論の一つであるE=mc²は、質量とエネルギーとが等価であることを示し、核融合や核分裂のエネルギー源を説明する。
一般相対論は、重力の本質に関する考察であり、重力場での現象と加速運動による現象とが区別し得ないとする「等価原理」を柱としてゐる。此理論では、重力は物質(質量)の存在に依て時空自体が歪み(曲がり)、其歪みが他の物体に作用する「近接作用」として働く。時空が曲がってゐる故に、光も亦重力場の中で曲がる(光線の曲がり)と予言せられ、是は日食観測などに依て検証せられた。一般相対論の極端なる帰結として、光すら脱出し得ない程に時空の曲率が無限大になる天体「ブラックホール」の概念が導かれる。
更に、アインシュタインはミクロな世界に就ても業績を残した。「光電効果」の現象を説明する為に、光はエネルギーが離散的なる「光量⼦」(光子)の塊として振舞ふ(粒⼦性)と云ふ画期的なる仮説を提唱した。然し、彼は量子力学が主張する「物事が確率的」に生起する世界観には反対し、「神は賽子遊びをしない」と云ふ言葉を残してゐる。
一般相対論は、宇宙全体に適用せられ、静的だったニュートンの宇宙観やアインシュタイン自身の初期の静止宇宙モデルをも超えて、動的に膨張する「ビッグバン宇宙」の描像を齎した。アインシュタインの予言の多くは観測的に実証せられ、近年では重力波の直接検出と云ふ「最後の宿題」の一つも解かれた。然し、重力と量子力学との統合(量子重力)等、未解決の謎は依然として多く残されてゐる。アインシュタインの偉大さは、複雑な数式ではなく、誰もが自明と信じてゐた常識的世界観そのものを根底より変革した「発想の転換」にあると著者は主張する。
読書履歴
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◽️雑感
本書は平成12年に大和書房より刊行せられた『アインシュタインの宿題』の改題増補なり。内容は特殊相対性理論・質能等価・一般相対性理論・ブラックホール等の定番の占むる所にして、平易明快なる筆致は科学雑誌「ニュートン」を想起する風あり。宇宙物理学の射程の宏遠なるに目眩めく心地ぞする。
著者曰く、ニュートンの宇宙は静止した「死んだ世界」であったのに対し、アインシュタインの一般相対論は、動的に変化する「生きてゐて進化する世界」を明らかにした。従来の宇宙観が混沌より秩序への変化を表象したのに対し、現代の宇宙観では、光に満ちたビッグバンより始まった宇宙が、秩序(構造)無き様より、銀河や星・生命と複雑なる構造を形成する「渾沌」へと変化してきた、と云ふ真逆の表象を表してゐる、と。是はコペルニクス的転回に匹敵する大転換であると、従前の理論との対比を際立たせて其意義を語れり。
◽️不正確大要
本書は、相対性理論に就て、現象(何が起こるか)のみならず、何故其が起るかと云ふ根源的部分を、複雑なる数式を使はず、常識的思考の変革として基礎的・初等的に説明することを目指してゐる。
アインシュタイン以前、ニュートン力学は絶対的時間と絶対的空間とを不変の枠組としてゐた。是に対し、特殊相対論は「光速度不変の原理」(光の速さcは誰より見ても常に一定である)と「特殊相対性原理」(自然法則は静止してゐる人にも動いてゐる人にも同様に成立つ)の二つを柱とする。此理論により、時間と空間とは独立したものではなく、柔軟に変化する「四次元時空」として統一せられた。其結果として、観測者に依て同時性が異なって見える「同時刻の相対性」や、高速で移動する物体内の時間が遅延する「時間の遅れ」(ウラシマ効果)と云った、日常的感覚よりは想像し難い現象が導かれる。又特殊相対論の最も有名なる結論の一つであるE=mc²は、質量とエネルギーとが等価であることを示し、核融合や核分裂のエネルギー源を説明する。
一般相対論は、重力の本質に関する考察であり、重力場での現象と加速運動による現象とが区別し得ないとする「等価原理」を柱としてゐる。此理論では、重力は物質(質量)の存在に依て時空自体が歪み(曲がり)、其歪みが他の物体に作用する「近接作用」として働く。時空が曲がってゐる故に、光も亦重力場の中で曲がる(光線の曲がり)と予言せられ、是は日食観測などに依て検証せられた。一般相対論の極端なる帰結として、光すら脱出し得ない程に時空の曲率が無限大になる天体「ブラックホール」の概念が導かれる。
更に、アインシュタインはミクロな世界に就ても業績を残した。「光電効果」の現象を説明する為に、光はエネルギーが離散的なる「光量⼦」(光子)の塊として振舞ふ(粒⼦性)と云ふ画期的なる仮説を提唱した。然し、彼は量子力学が主張する「物事が確率的」に生起する世界観には反対し、「神は賽子遊びをしない」と云ふ言葉を残してゐる。
一般相対論は、宇宙全体に適用せられ、静的だったニュートンの宇宙観やアインシュタイン自身の初期の静止宇宙モデルをも超えて、動的に膨張する「ビッグバン宇宙」の描像を齎した。アインシュタインの予言の多くは観測的に実証せられ、近年では重力波の直接検出と云ふ「最後の宿題」の一つも解かれた。然し、重力と量子力学との統合(量子重力)等、未解決の謎は依然として多く残されてゐる。アインシュタインの偉大さは、複雑な数式ではなく、誰もが自明と信じてゐた常識的世界観そのものを根底より変革した「発想の転換」にあると著者は主張する。