2016/08/07
271ページ
2016/04/26
213ページ
かるく、抱かれた。近くなったのに、遠ざけられているようだった。抱かれているのに、抱かれているから、さみしかった。
2016/04/23
96ページ
七月か。青茲は考えている。ちょっと、予定を調整してみようか。しばらく、返事は待っていてくださいね。それからすぐに青茲は行ってしまった。自分から去るときは、ためらいがない。わたしが帰ろうとすると、惜しそうにするのに。
2016/04/22
83ページ
「いないから、嫉妬する」青茲は言った。「いないのに、ついてくるから、嫉妬する」青茲はいいなおした。
2016/04/10
68ページ
いなくなったからではない。日記を読みながら、自分の目ではなく、礼自身の目で、ここいらにあるものを見てしまったからだった。他人の目でここいらを見るとは、なんときもちわるいものだろう。以来、日記の字を読むと、刺されるようになった。痛い。いやだ。きらいだ。礼が。わたしとちがう。わたしから、へだたっている。けれど、へだたっていることは、ほんとうは、知っていた。知っていたのに、思い知らされると、びっくりする。火にふれて飛びのいたときのように、感情がゆすぶられる。
2016/04/10
67ページ
ひととき、本棚の奥にしまいこんだ。見えないように。礼を、見知らぬものと思ったことは一瞬もなかったのに、日記を読んだとたんに、見知らぬものになった。顔も、思いだせなくなった。においも。肌のここちも。声も。
2016/04/10
58ページ
言いながら、母はのびをしている。口ぶりはこころぼそそうだが、からだは春に向かってひらいているのがわかる。のびをする手の先の力が、つよい。
2016/04/10
39ページ
百には、やわらかな部分しか、さらせないのだ。かたくおおって守ればいいものを。むかし、百を自分のからだが所有していたことをおぼえていて、へだてをつくって拒むことができない。
2016/04/10
17ページ
もてあそぶほど死は遠くにない。すぐそこにあるというものでもないけれど。
2016/04/10
13ページ
百が生まれたばかりのころ、乳を吸われながら、近い、と思った。この子となんと近くにあるのだろう。腹の中に宿していたときよりも、なお近いように思った。可愛いだのいとおしいだの、そんなものではなかった。ただ、近かった。
2016/04/10
16ページ
「砂」という名字を不思議に思った。昨夜は何も思わなかったのに。響きが不思議というよりも、どのような名前がその下に来たならぴったりとくるのか、それが不思議だった。
2016/04/10
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「朝食は」と聞く息子の声に、おぼえがあったが、あきらかに初対面である、知ったものの声に似ているにしても、それが誰なのか思いだせない。出される声そのものでなく、声の奥底にある揺れのようなものに、おぼえがあるのだった。