
内容紹介

📝 レビュー (あおみさんのレビュー)
涙を蓄えながらも決して流すまいとぐちゃぐちゃな笑顔で見送る。
そして見送られる側もその涙に感謝しながら複雑な微笑みをもって応える。
このように卒業とは、悲しみの中に一つの希望があることを皆が理解した一種の儀式ではなかったか。
少なくとも私は、輝かしいとは言えないまでも悲しみで溢れた涙が薄い月光を反射しているかのような、微かな喜びと希望の印象を卒業というものに対して抱いていた。
本書『卒業』はあまりにも悲しすぎる。
卒業はこれほど悲しい、これからの人生に重くのしかかるものではないはずだ。別れだけが卒業ではないはずだ。
別れがあれば出会いがある、と言うが、その別れが「永遠の別れ」だった場合なら、もしかしたらこういう悲しい物語を紡ぎ出す結果になるのか。
その悲しみは、悲惨でもなく、悲痛でもなく、残酷でもない。純粋に涙が零れそうな悲しみ。だからこそ強く、重く心にのしかかる。
極めて現実的な動機のため、理解できてしまう。さらに、物語の登場人物は大学4年生である。年齢も変わらない。そして、私にも10年来の親友が5人いる。
こうした事実の重なりを踏まえて、本書を拝読するというのは私の心に対して強い影響を及ぼした。
物語の6人を、私を含めた6人で置き換えて考えてみる。
誰かが誰かを殺す。
極めて非現実的だ。有り得ない。非常に使い古された言葉であるが、世界が終わろうともこれだけは有り得ないと言い切れる。
しかし、この感情は加賀や藤堂、波香も同じだったのではないだろうか。
共に過ごした膨大な時間。切磋琢磨した闘い。語り明かした秘密の数々。救われた言葉。幾度となく見てきた笑顔。
曖昧模糊としたこのような友情を信じて、彼らは自分たちの中で事件など起こり得ないと現実から目を背けていた。
しかし、その現実は起こった。
一人の少女の一夜の過ちによって。(祥子)
一人の少年の冷徹な言葉によって。(藤堂)
一人の少女の恋心によって。(華江)
一人の少女の復讐心によって。(波香)
全ての理由においてフィクションはなかった。
重ねて言うが、どの理由においても極めて現実的だった。
友情は脆いのか。所詮は血の通っていない人間の集団なのか。親友だろうが何だろうが、互いに何も理解出来ていないのか。自分が一番可愛いのか。
そんな悲しいことを考えてしまうが、これは間違っている。というか、間違っていてほしいと切に願う。
彼らもそう願ったのではないか。
なぜなら、彼らは最後の最後まで「友人」でいようとしたからだ。
もしかしたら、この事実こそが最も悲しいことなのかもしれない。
東野圭吾 氏の作品は非常に幅が広い。
私は「放課後」「黒笑小説」「天使の耳」と立て続けに三作読み、なぜこの作者が持て囃されているのが理解できなかった。
極めて淡々とした文章表現と、冴えない登場人物と、斬新さに欠けたトリック。
この一冊が合わなければ読むのをやめようと手に取った「白夜行」に、私はこれまで感じたことのない重みを感じた。
心に直接のしかかるような鈍い重み。
それ以降も例を挙げるとすれば「容疑者Xの献身」「真夏の方程式」「手紙」などの作品においても、同様の重みを感じた。
これらの作品は、どれもが悲しい。悲しみに共通していることが一つだけある。
それは愛情だ。
愛情が核をなした悲しみというものは非常に人間の心、言い換えれば感情を揺れ動かす。
本書も同様の悲しみを随所に蓄え、私の心は大きく揺れ動かされた。
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