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路地の子

路地の子

上原 善広

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レビュー

zooko012
zooko012 2017年7月読了
東京生まれなので、被差別部落のことが日常問題となることはほとんどない。しかし、高校のときに「橋のない川」を読んでから、気になっており、中上健次の「紀州」(傑作)をはじめ、折りに触れ意識的に読むようにしている。そして本書。被差別部落である更池に生まれた著者が、食肉の卸会社を立ち上げ戦後を生き抜いた父を軸として取り上げたノンフィクションである。部落解放同盟、右翼、共産党、ヤクザ、同和利権など、余りよく知らなかった戦後史の一端が迫力をもって描写されており、偽装事件で問題となったハンナンなども登場し興味深い。とはいえ、前半の生き生きとした部分が後半には完全にトーンダウン。時代的に近すぎる上に、著者の父も存命で継続的に事業を営んでいることもあり、客観化も十分ではなく、書けないこともあるのだろう。後書きを読んで、著者が相当の覚悟をもって本書に取り組んだこと、今の時期に書かざるを得なかったこともわかるのだが、時期尚早の感を否めない。全くの個人的意見としては、著者の個人的な思いと客観のバランスをとるのが難しい「日本の路地を旅する」などの一連の同和ものより、むしろ、「石の虚塔」における著者のノンフィクションライターとしての力量を買いたい。

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