みんなの評価
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1
レビュー
◽️雑感
生物学と自然人類学とに依る人類史の書なり。
著者曰く、口を持つことが動物の本性とぞ。顔は其機能を有せむが為に生じたりき。
著者はヒトの顔を象の顔に似ると指摘す。何となれば、いづれも口は突出せず、鼻や手を以て餌を把握して口に入るればなりと。又、象の臼歯の奥行の短く、ヒトの顎に相当する突出部あるも似たりと云ふ。
◽️不正確なる大要
本書は、人類の「顔」が有する驚くべき進化の歴史を、人類学の視点より解明かす。抑も動物の顔は、食べる為に始まり、やがて外界の様々なる刺激を感知し、更には情報を発信する場所へと進化してきた。顔は眼・鼻・口・耳などの器官が集まる領域であり、意識的か無意識的かを問はず、コミュニケーションの情報を交換する場として重要である。
顔の進化の起点は、移動する動物の前端に口ができたこと、即ち「初めに口ありき」に求め得る。エネルギー源を取込む口の周辺に、餌を探し捕らへる為の視覚・嗅覚・聴覚などの感覚器が集中し、其等を統御する脳も発達した。
脊椎動物の進化に於て、鰓の骨であった鰓弓の一部が上下の顎骨となり、皮膚の硬い組織が発達して獲物を噛み砕く歯が「発明」せられた。殊に哺乳類は、機能毎に分化した異形歯性(切歯・犬歯・臼歯)を獲得し、食物を細かく噛み砕くことで代謝効率を大幅に高め、恒温性と活発な行動とを可能にした。又、爬虫類以降に出現した頸により、顔を自由に動かすことが可能となり、感覚器の働きを向上せさせた。哺乳類では更に、頸の皮膚筋が顔に侵入して顔面筋(表情筋)となり、表情に依る感情表現と情報伝達とが可能になった。
ヒトの顔は、咀嚼器官が退縮し、脳が拡大した結果、香原志勢が提唱した「四階建」の構造(口腔・鼻腔・眼窩・頭蓋腔)を持つことが特徴である。又、ヒトの眼は白眼が露出し、横長である故に、視線の方向を他者に伝ふと云ふ、高度な社会的コミュニケーションの機能を担ふ。顎の先端が前に突出した頤(オトガヒ)はホモ・サピエンス特有の形態であり、是は、言語を話す為に喉頭が下がり、其空間を確保する必要があった故と解釈せられる。
現代人の顔の多様性(人種差)は、祖先がアフリカより世界に拡散した後に、各地域の気候や食生活に適応した結果である。北西ヨーロッパ人の白い肌は、高緯度地域で佝僂病を防ぐ為に紫外線よりビタミンDを効率善く合成する為の適応であり、北東アジア人の平坦な顔つきは、寒冷地で眼や気道を保護し、硬い食物を噛む力を高める為の適応(頰骨の突出など)であるとせられる。
日本人の顔は、彫りが深く頑丈な顔つきの縄文人(世界的平均に近い形態)と、平坦で細長い顔つきの渡来系弥生人との混血に依て形成せられた。然し、現代の日本では、軟らかい食物を好む食生活が一般化し、噛む機能の必要性が低下した結果として、顎と歯槽骨とが退縮し、顔の構造は華奢で脆弱化する傾向にある。此咀嚼器官の退化は、歯列異常や睡眠時無呼吸症などの健康上の問題を招いてをり、人類学の観点より見れば、此傾向は文明が齎した弊害であり、将来的に人類の生存を脅かす可能性すらあると警告せられてゐる。
生物学と自然人類学とに依る人類史の書なり。
著者曰く、口を持つことが動物の本性とぞ。顔は其機能を有せむが為に生じたりき。
著者はヒトの顔を象の顔に似ると指摘す。何となれば、いづれも口は突出せず、鼻や手を以て餌を把握して口に入るればなりと。又、象の臼歯の奥行の短く、ヒトの顎に相当する突出部あるも似たりと云ふ。
◽️不正確なる大要
本書は、人類の「顔」が有する驚くべき進化の歴史を、人類学の視点より解明かす。抑も動物の顔は、食べる為に始まり、やがて外界の様々なる刺激を感知し、更には情報を発信する場所へと進化してきた。顔は眼・鼻・口・耳などの器官が集まる領域であり、意識的か無意識的かを問はず、コミュニケーションの情報を交換する場として重要である。
顔の進化の起点は、移動する動物の前端に口ができたこと、即ち「初めに口ありき」に求め得る。エネルギー源を取込む口の周辺に、餌を探し捕らへる為の視覚・嗅覚・聴覚などの感覚器が集中し、其等を統御する脳も発達した。
脊椎動物の進化に於て、鰓の骨であった鰓弓の一部が上下の顎骨となり、皮膚の硬い組織が発達して獲物を噛み砕く歯が「発明」せられた。殊に哺乳類は、機能毎に分化した異形歯性(切歯・犬歯・臼歯)を獲得し、食物を細かく噛み砕くことで代謝効率を大幅に高め、恒温性と活発な行動とを可能にした。又、爬虫類以降に出現した頸により、顔を自由に動かすことが可能となり、感覚器の働きを向上せさせた。哺乳類では更に、頸の皮膚筋が顔に侵入して顔面筋(表情筋)となり、表情に依る感情表現と情報伝達とが可能になった。
ヒトの顔は、咀嚼器官が退縮し、脳が拡大した結果、香原志勢が提唱した「四階建」の構造(口腔・鼻腔・眼窩・頭蓋腔)を持つことが特徴である。又、ヒトの眼は白眼が露出し、横長である故に、視線の方向を他者に伝ふと云ふ、高度な社会的コミュニケーションの機能を担ふ。顎の先端が前に突出した頤(オトガヒ)はホモ・サピエンス特有の形態であり、是は、言語を話す為に喉頭が下がり、其空間を確保する必要があった故と解釈せられる。
現代人の顔の多様性(人種差)は、祖先がアフリカより世界に拡散した後に、各地域の気候や食生活に適応した結果である。北西ヨーロッパ人の白い肌は、高緯度地域で佝僂病を防ぐ為に紫外線よりビタミンDを効率善く合成する為の適応であり、北東アジア人の平坦な顔つきは、寒冷地で眼や気道を保護し、硬い食物を噛む力を高める為の適応(頰骨の突出など)であるとせられる。
日本人の顔は、彫りが深く頑丈な顔つきの縄文人(世界的平均に近い形態)と、平坦で細長い顔つきの渡来系弥生人との混血に依て形成せられた。然し、現代の日本では、軟らかい食物を好む食生活が一般化し、噛む機能の必要性が低下した結果として、顎と歯槽骨とが退縮し、顔の構造は華奢で脆弱化する傾向にある。此咀嚼器官の退化は、歯列異常や睡眠時無呼吸症などの健康上の問題を招いてをり、人類学の観点より見れば、此傾向は文明が齎した弊害であり、将来的に人類の生存を脅かす可能性すらあると警告せられてゐる。