みんなの評価
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1
レビュー
◽️雑感
本書は英語圏に於て定評ある入門書叢書オックスフォード大学刊「Very Short Introduction」の一冊なり。出版社を問はず訳文の生硬なる書の多きVSI叢書にしては熟れたる文体ならずや。
行動経済学は認知バイアス等心理現象を主たる研究対象としたれば、蓋し心理学や神経科学とも隣接せる人文・社会・自然科学を横断する学際的領野なるべし。
惜しまくは、単行本版発兌平成30年なれば、人文社会科学の再現性の危機の行動経済学に於る影響への言及無きなり。ジェイソン・フレハをして「行動経済学は死んだ」と云はしめたる斯学の現況を伝ふるに疎漏ありと云はざるべけむや。文庫版解説に於て附言すべかりしものをとぞ思ふ。
◽️不正確大要
行動経済学は、従前の経済学が人間を完璧に合理的存在(ホモ・エコノミカス)と看做すのに対し、社会的及び心理的要因が実際の意思決定に影響を与ふることを受容れ、経済学の原則を広げた分野である。行動経済学は、人間の限定合理性に焦点を当て、伝統的計量経済モデルではなく、実験データ・神経科学的データ・無作為化比較試験(RCT)の類の多様なる実証的アプローチを用ゐる。
人間の行動は、①金銭的報酬や社会的承認等の「外発的動機」と、②仕事への矜持や課題を解く楽しさ等の「内発的動機」の二種類に動機づけられる。殊に、少額の金銭的報酬が内発的動機を阻害するクラウディング・アウト(駆逐)現象が指摘せられてゐる。又人は完全に利己的ではなく、信頼や互酬性・不平等回避(不公平なる結果を悪む傾向)を重視する。更に、集団に同調することを望む規範的要因や、他者がより良い情報を持ってゐると考ふる情報的要因より、他者の行動を模倣するハーディング現象が見られ、是は経済や金融の判断に大なる影響を及ぼす。
意思決定に於て、人は認知的労力を節約する為に、ヒューリスティクス(経験則や速い思考)を利用する。是を以て、系統的で予測可能なる行動バイアスが生ずる。主たるヒューリスティクスとして、入手し易い情報に頼る「利用可能性ヒューリスティックス」・既存の固定観念に当嵌むる「代表性ヒューリスティックス」・特定の参照点に固執する「アンカリング」等があり、アンカリングの一種として現況を変ふることを避くる「現状維持バイアス」(デフォルト・オプションに引きずられる傾向)も存在する。
危険性や不確実性下の選択を説明するプロスペクト理論は、従来の期待効用理論を批判し、人が利得よりも損失に対して遙かに敏感であると云ふ損失回避性を提唱した。又将来の結果を予測する能力が不完全である故に、短期的報酬を過度に重視する現在バイアス等の、時間不整合性の問題も発生する。此問題に対処すべく、長期的目標達成の為に短期的選択に制限をかけるプリ・コミットメント戦略が用ゐられる。
是等の行動経済学の知見は、公共政策へ応用せられ、人々の行動変化を促すナッジ(リバタリアン・パターナリズム)と云ふ手法が開発せられた。ナッジは、デフォルト・オプションの操作を通じて建設的選択に誘導する手法や、他者の行動(社会規範)を比較情報として提供する社会的ナッジとして具体化せられてゐる。マクロ経済学の分野では、集団の楽観や悲観の類が景気循環や金融不安定化の要因となることが分析せられてをり、行動経済学は経済のパフォーマンスを金銭的価値のみならず、国民の幸福や福祉と云ふ側面よりも捉ふるやうに変化を齎してゐる。
本書は英語圏に於て定評ある入門書叢書オックスフォード大学刊「Very Short Introduction」の一冊なり。出版社を問はず訳文の生硬なる書の多きVSI叢書にしては熟れたる文体ならずや。
行動経済学は認知バイアス等心理現象を主たる研究対象としたれば、蓋し心理学や神経科学とも隣接せる人文・社会・自然科学を横断する学際的領野なるべし。
惜しまくは、単行本版発兌平成30年なれば、人文社会科学の再現性の危機の行動経済学に於る影響への言及無きなり。ジェイソン・フレハをして「行動経済学は死んだ」と云はしめたる斯学の現況を伝ふるに疎漏ありと云はざるべけむや。文庫版解説に於て附言すべかりしものをとぞ思ふ。
◽️不正確大要
行動経済学は、従前の経済学が人間を完璧に合理的存在(ホモ・エコノミカス)と看做すのに対し、社会的及び心理的要因が実際の意思決定に影響を与ふることを受容れ、経済学の原則を広げた分野である。行動経済学は、人間の限定合理性に焦点を当て、伝統的計量経済モデルではなく、実験データ・神経科学的データ・無作為化比較試験(RCT)の類の多様なる実証的アプローチを用ゐる。
人間の行動は、①金銭的報酬や社会的承認等の「外発的動機」と、②仕事への矜持や課題を解く楽しさ等の「内発的動機」の二種類に動機づけられる。殊に、少額の金銭的報酬が内発的動機を阻害するクラウディング・アウト(駆逐)現象が指摘せられてゐる。又人は完全に利己的ではなく、信頼や互酬性・不平等回避(不公平なる結果を悪む傾向)を重視する。更に、集団に同調することを望む規範的要因や、他者がより良い情報を持ってゐると考ふる情報的要因より、他者の行動を模倣するハーディング現象が見られ、是は経済や金融の判断に大なる影響を及ぼす。
意思決定に於て、人は認知的労力を節約する為に、ヒューリスティクス(経験則や速い思考)を利用する。是を以て、系統的で予測可能なる行動バイアスが生ずる。主たるヒューリスティクスとして、入手し易い情報に頼る「利用可能性ヒューリスティックス」・既存の固定観念に当嵌むる「代表性ヒューリスティックス」・特定の参照点に固執する「アンカリング」等があり、アンカリングの一種として現況を変ふることを避くる「現状維持バイアス」(デフォルト・オプションに引きずられる傾向)も存在する。
危険性や不確実性下の選択を説明するプロスペクト理論は、従来の期待効用理論を批判し、人が利得よりも損失に対して遙かに敏感であると云ふ損失回避性を提唱した。又将来の結果を予測する能力が不完全である故に、短期的報酬を過度に重視する現在バイアス等の、時間不整合性の問題も発生する。此問題に対処すべく、長期的目標達成の為に短期的選択に制限をかけるプリ・コミットメント戦略が用ゐられる。
是等の行動経済学の知見は、公共政策へ応用せられ、人々の行動変化を促すナッジ(リバタリアン・パターナリズム)と云ふ手法が開発せられた。ナッジは、デフォルト・オプションの操作を通じて建設的選択に誘導する手法や、他者の行動(社会規範)を比較情報として提供する社会的ナッジとして具体化せられてゐる。マクロ経済学の分野では、集団の楽観や悲観の類が景気循環や金融不安定化の要因となることが分析せられてをり、行動経済学は経済のパフォーマンスを金銭的価値のみならず、国民の幸福や福祉と云ふ側面よりも捉ふるやうに変化を齎してゐる。
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