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ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)

パオロ・バチガルピ

4.5
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レビュー

机龍之介
机龍之介
2012年3月読了
 「陛下が気にかけていらっしゃったのはおれたちだった。だから、おれたちが守るべき象徴を作ってくださったんだ。だが、大切なのは町じゃない、人なんだ。人が奴隷状態だった、町になんの意味があるんだ?」
 
 科学は進歩したが、文明が衰退した世界でタイの首都バンコクを舞台にしたカルマにとらわれた人々の物語。上巻は舞台と登場人物を紹介するまったりとした展開。下巻で急激に物語が動き続ける。
 登場人物たちは奔走して、それぞれのカルマを克服したり、飲み込まれて死んでしまったり、新たなカルマを背負ったりしていく。
 そして人類は目の前に横たわる将来の絶望的な危機を無視して、権力闘争に明け暮れることで、カルマを克服することはかなわずに緩慢なる滅亡の道を選択する。
 大震災と原発事故を体験しながら、何も変えることは出来ず、権力闘争に明け暮れる日本みたいな状況。政治家もそうだし、反原発を掲げる団体もそう。あらゆる階層の人間が将来に向かって横たわる危機から目をそらし、権力を目指すか目の前の危機に目をつぶるかしている日本と重なる。今を生きる日本人は将来の子ども達に懺悔しながら、無自覚に滅亡への道を走っていると思うよ。国にこだわって人を守ろうとしてないから。
 ラストシーンで、滅亡が決定的になった人類が優しげな悪魔の知性によって「神」の地位を手に入れて、新人類の「ねじまき」たちに地球の盟主の地位を明け渡すのは、ある種の救いなのだろう。現実には救いはないけど。
 ところで、「変異性ウイルスの話がどこかへ消えて不完全」みたいなamazonのレビューがあった。しかも結構な数の「参考になった」。行間が読めない人間が大手を振って発言して、さらにそれが支持されている状況も日本の将来を憂うに充分な理由だと信じてる。

読書ステータス

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