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14歳から考えたい 貧困

14歳から考えたい 貧困

フィリップ・ジェファーソン

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レビュー

餼羊軒
餼羊軒
2025年11月読了
◽️雑感
 オックスフォード大学刊行叢書「Very Short Introduction」の一冊なり。「14歳から考えたい」と冠せれども、原著は非英語母語話者の大学生を想定せるに、大衆訓蒙の体を装ふは出版社の商魂浅ましからずや。本書は、貧困と云ふ複雑多岐なる難題に就て、種々の側面と相互関係とを明らかにせむとす。其原因に於ては、貧困外因説の旗幟を掲げ、歴史上の弊政や救貧抜苦の制度設計を説けり。

 本書は、多角的視点より貧困問題への理解を深むることを目的とし、所得や消費の類の経済的尺度に止まらず、健康・教育・社会関係資本の類の質的側面、更には統治や制度の役割をも強調する。貧困削減は、啻に個人努力のみならず、政府の政策・国際協力・而して社会全体の努力に依てのみ得て達成するとの意思が全篇に表れてゐる。

 最低賃金の上昇は貧困率の低下を齎すと米国の研究を紹介して実証的に述べたるこそ労働者の肩を持てれ。使傭者の負担は増すとも、昇給と愛社精神との聯関を唱ふなる「生活賃金」概念を踏まふれば両得にや。

 「所得の不平等」は「社会階層移動可能性」を妨ぐるとき貧困の脱却を難化せしめ、階層固定の誘因たりなむ。

 SDGsの標語は本邦の外にはつゆ唱へられずと聞きしかども、是は洋書の国訳なれば些少は用例もあるめり。

◽️不正確大要
 本書は、「貧困」と云ふ課題に就て、其現状・歴史的経緯・原因・計測方法・具体的対策を多角的に分析し、将来の展望を探るものである。貧困は種々の要因が互に相影響する複雑なる問題であり、個々の努力のみには解決し難く、政府の役割が重要となる。

 世界の貧困の状況を見ると、極度の貧困(一日当り1.90ドル未満)の比率は、1990年より2013年にかけて大きく減少し、殊に東アジアや南アジアで改善が顕著に見られた。然し、サハラ以南のアフリカでは人口増加により絶対数が依然として多く、先進国に於ても貧困削減の成果は開発途上国程ではない。貧困は、置かれた状況や文化的な背景に依て其意味合ひが大きく異なる相対的概念でもある。

 貧困の背景には、制度の機能不全・差別・社会的排除・ヒューマン=キャピタルやソーシャル=キャピタルの低さなど、多様なる要因が存在する。又、居住区域の分離や景気変動・失業の類のマクロ経済的条件も貧困を深刻化せさせる。過去には、英国の囲込み運動や植民地主義が収奪的制度を通じて格差を拡大せさせてきた歴史がある。

 貧困の計測には、所得や消費を用ゐる従来の尺度に加へ、アマルティア・セン等が提唱した平均余命や教育機会等の質的側面を含む「潜在能力アプローチ」が重要視せられてゐる。国連の人間開発指数(HDI)は此手法に基づき、健康・教育・所得の三側面より幸福度を測る。国内の貧困界線設定には、絶対的貧困(米国・国際基準)と相対的貧困(欧聯)との概念があり、其々異なった政策的含意を持つ。

 貧困削減策には、賃金と雇用とに焦点を当てた労働市場政策や、所得移転制度がある。労働市場では、低技能労働者の生活を支ふる為の最低賃金(生活賃金)や、就労を条件とする勤労所得税額控除(EITC・米国)・職業訓練等が実施せられる。又、貧困の長期化を防ぐ為には、殊に女性に対する差別の解消や、無償のケア労働の負担の軽減を通じた女性の処遇向上が不可欠であるとする。

 政策やプログラムの有効性を判断する為に、ランダム化比較試験(RCT)等の厳格なる評価手法が用ゐられ、因果関係の立証が試みられてゐる。世界規模では、ミレニアム開発目標(MDGs)の成果を引継ぎ、極度の貧困を終結を企図する持続可能開発目標(SDGs)が推進せられてゐる。

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