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アサーション入門

アサーション入門

平木典子

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レビュー

餼羊軒
餼羊軒
2025年12月読了
◽️雑感
 本書は心理学の知見に基ける対話術「アサーション」に依る自己表現法の意義と方法とを説けり。

 著者は攻撃的自己表現の行使者の末路を悪様に描きたれども、実証も無く断言しつれば公正世界仮説的願望混じりの臆断にぞ見ゆる。

 アサーションは縦し己が意思を通じ得とも、万事恣になるとは限らぬことを前提とせり。他者理解に努めて歩寄り、妥協点を模索するを要すれば、故れ、他方の非協力的状況下に於ては有効たりや。説得術としては、『話が通じない相手と話をする方法』をしぞ参看すべきなるめる。

 又アサーションに於ては、加害者の罪過の謝罪及び被害者の其を容赦するを肝要とすれども、是は世に散在する他者の瑕疵をゆめ赦さぬ人を対手として通用し得ねば、蓋し双方に協力の意図あるを要すべし。

◽️不正確大要
 本書は、自身も対手も倶に尊重する自己表現(自他尊重の自己表現)としてのアサーションを解説する。アサーションは、単なる自己主張や口吻にあらず、心理学の知見に基づき、日常のやり取りに変化と充実感とを齎す対話の方法であり、より良い人間関係の在り方を含む。

 自己表現の類型は大別して三つあり。一つは、自分を後回しにして意見を言はぬ、若しくは言ひ損ふ非主張的自己表現(non-assertive)であり、葛藤を避くる代りに、自己否定や欲求不満が蓄積し、心身の不調や突発的なる攻撃的行動(癇癪)に繋る虞がある。もう一つは、自分のことのみを考へ、対手の心情を無視又は軽視して押附くる攻撃的自己表現(aggressive)であり、一時的に意見が通るとも、長期的には敬遠せられ孤立を招く。是等に対してアサーティブなる自己表現は、両極端の表現の中間にある「黄金率」であり、自分の意思や感情を正直に伝へつつも、対手の反応を受止め、対等なる関係を築かうとする姿勢である。

 アサーションの土台となるのは、「人として誰もがやって可いこと」(人権)を互に相認めると云ふ思想である。是には、自分らしくあって可いこと・感情や意思を表現して可いこと・過ちを犯した責任を取って可いこと(謝罪も亦権利)が含まれる。又アサーティブになる為には、「〜すべきだ」「当然だ」が如きの極端の先入観(アサーションの歯止め)を再考し、思考を柔軟に変化せさせることが重要となる。

 アサーションは、我々の生活に三つの力を齎す。其実践は、課題達成を目的とする任務(Task)の為のアサーションと、関係維持や心の健康の為の保全(Maintenance)の為のアサーションに分け得る。タスクアサーションに於ては論理的言語表現が有効である一方で、メンテナンスアサーションに於ては感情の機微や情緒を伝ふる非言語的行動が重要となる。此二つの機能の均衡が、マズローの欲求段階説に於る「所属と愛との欲求」や「承認の欲求」を満たすことに繫り、最終的に「自己実現の欲求」へと至る。自己実現とは、自分自身を理解し、自分の持つものを最大限に活かさうとする欲求である。

 複雑なる状況でアサーティブなる対話を行ふ為の具体的なる手掛りは三つの要点に収斂せられる。

1. 自分の心情を確かめる:自分は状況に対して如何にしたいのか、正直に心境を捉へる。
2. 事実や状況を共有する:感情のみならず、客観的状況や事実を相手に伝へ、共通の理解基盤を作る。
3. 提案は具体的に述べる:抽象的要求ではなく、具体的なる解決策や希望を提示する。

 アサーションは、相手を意のままに操る魔術ではない。然し、葛藤や意見の不一致が生じても、其を相互理解の契機と捉へ、まづは己がアサーティブなる態度を取らうとすることで、建設的関係を創出することをなし得る。殊に「私メッセージ」を用ゐて自身の意思を率直に伝ふる工夫は、相手を非難せずに済む為に有効である。アサーションは、自分らしい生を築く為の自己表現法である。

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