胸の中にて鳴る音あり (文春文庫)

出たら必ず購入することにしている、上原隆の「友がみな」シリーズ（ノンフィクション）の最新文庫版である。介護、不倫、４０年夫一筋の専業主婦、文学賞応募者、結婚相談所訪問者など、おかれた状況は異なるが、結局のところ普通の人の日常と思いが淡々とした筆致で記される。一つ一つのエピソードに、落ちがあるわけでも、感動するわけでも、涙が出るわけでもない。スルッと読めてしまうが、どのエピソードも心のどこかに小さなかきざきを作り、何とも形容しがたいザラッとしたものを残す。そして、ふとした拍子に、なぜかそのエピソードが思い出されることがある。不思議な本である。