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Mine! 私たちを支配する「所有」のルール

Mine! 私たちを支配する「所有」のルール

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13回参照
6日前に更新

書籍情報

ページ数:
247ページ
参照数:
13回
登録日:
2025/12/01
更新日:
2025/12/01

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📝 レビュー (餼羊軒さんのレビュー)

評価:
2/5
レビュー:
◽️雑感
 本書は法学者に依る所有権概念の分析を易解するものなり。所有権の憑拠を分類せる所に著者の功ありと見ゆ。具体例は米国読者に向けたるものあれば、稍背景事情を察し得ず。

◽️不正確大要
 本書は、我々が当然と考ふる「所有」の概念が、実には曖昧にして操作可能なる「所有権の設計(デザイン)」にあることを、具体的事例を挙げて解説する。其中心的主意は、所有権の規範は固定せられたものにあらず、常に変化し、特定の目的の為に「設計」せられると云ふことである。所有権と云ふ規範は、資源の稀少性の増大や技術の変化、社会的価値観の変遷に応じて、時に意図的且つ巧妙に調整せられてきた歴史がある。

 著者は、我々が所有権を主張する際に用ゐる六つの典型的根拠、即ち「所有権ツールキット」を提示する。是等は、①早い者勝ち(First Come, First Served)・②占有(Possession)・③労働(Labor)・④附属(Attachment/Accession) ・⑤家族所有(Family Property) ・⑥家族所有権(Self-Ownership)である。

1. 早い者勝ち(First Come, First Served)
 此規則は、最も原始的にして直感的なる所有権の根拠の一つである。然し、「誰が一番乗りかを誰が、決定するのか」と云ふ定義自体が、支配者や権力者に依て恣意的に行はれることがある。時間や金銭を基準に此規則が再設計せられることで、資源の配分方法が変化し、経済的価値や社会的価値が創出せられる場合がある。一方で、過度の競争や資源の濫獲に繫る可能性も指摘せられてゐる。

2. 占有(Possession)
 身体的な占有に基づく所有権の主張は、人間の最も原始的なる本能に根差してゐる。心理学の「授かり効果」(Endowment Effect)は、人々が一時的にでも所有した物に対し、より高い価値を認むる傾向にあることを実証してゐる。アップルストアが製品を自由に触はり得る開放的なる店構へを採用してゐるのは、此占有本能を利用し、顧客に製品への愛着を抱かしむる為である。されども、物理的占有が常に法的所有権を意味するとは限らない(例:ショッピングカートの中の商品、預けた物)。

3. 労働(Labor)
 「手づから蒔いた種を収穫する」と云ふ思想に基づき、自らの労働の成果を所有すると云ふ原則である。然れども、「何如なる労働が所有権の根拠となるか」の定義は恣意的で、差別の手段として用ゐられることもあった。又「ミッキーマウス延命法」の如く、ディズニー社等のロビー活動に依て著作権保護期間が延長せられ、パブリックドメインの享受が阻害せられることは、創造的労働への報いと公共の利益の間の緊張を示してゐる。

4. 附属(Attachment/Accession)
 此原則は、「明らかに自分の物と分ってゐる物に附属する物は全て自分の物だ」と云ふ直感的なる主張である。伝統的には、土地の所有権は「上は天国迄、下は地獄迄」及ぶとせられてきた。然し、航空機の登場に依て、此「空中の所有権」は制限せられつつあり、ドローンに依る配達の将来的な導入に於ても、空域の所有権の再定義が求められてゐる。又南シナ海に於る中共の人工島建設は、排他的経済水域の権利を主張する為に、岩礁を人工的に拡大し「附属」の原則を応用した大規模な例である。

5. 家族所有(Family Property)
 「家族の物だから私の物」と云ふ主張は、相続や離婚の如き家族の重要なる節目に於て、資産の所有権が何如に移転・分割せられるかを規定する。殊に、米国南部に於るアフリカ系アメリカ人の「相続不動産」の問題は深刻であり、遺言書の無いとき、土地の所有権は多数の遠い親戚に細分化せられ、全員の同意が必要となる故に土地の管理が困難となり、最終的に外部の買手に廉価で買叩かれる事態が多発してをり、白人と黒人との間の資産格差の一因ともなってゐる。

6. 自己所有権(Self-Ownership)
 「私の身体は私のもの」と云ふ自己所有権は、奴隷制の廃止に依て確立した基本的人権なれど、其範囲は常に議論の対象となってゐる。臓器売買(腎臓・卵子)は、人間の尊厳を害ふ行為として殆どの国で禁止せられてゐるが、其結果として闇市場が形成せられ、命が失はれると云ふ悲劇も生じてゐる。著者は、臓器売買を全面禁止する「オン/オフ・スイッチ」的な発想ではなく、適切なる規制の下に市場を設計する「調整つまみ」的発想(例:骨髄幹細胞の売買を許可した判決) が、より多くの命を救ふ可能性を秘めてゐると示唆する。又、職業スポーツ選手がチームによって売買せられる状況や、大学競技選手が肖像権等の自己所有権を制限せられてきた問題・従業員の競業避止義務契約も、自己所有権の限界の問はれる事例として紹介せられてゐる。

 本書は、所有権の規範は社会の重要なる構成要素であり、我々の価値観を深く反映してゐることを強調する。所有権は偶然に発生するものにあらず、常に変化し、特定の利害関係者に依て「設計」せられてゐる。斯くの如き理解は、個人が自身の財産や自由・社会の未来に関する選択を行ふ上で不可欠であると、著者は論を結ぶ。我々が直面する複雑なる地球規模の課題を解決する為には、所有権の概念を再考し、より持続可能にして公正なる未来を構築する為の「設計」を行ふ必要がある。

読書履歴

2025/12/01 247ページ 読了

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◽️不正確大要
 本書は、我々が当然と考ふる「所有」の概念が、実には曖昧にして操作可能なる「所有権の設計(デザイン)」にあることを、具体的事例を挙げて解説する。其中心的主意は、所有権の規範は固定せられたものにあらず、常に変化し、特定の目的の為に「設計」せられると云ふことである。所有権と云ふ規範は、資源の稀少性の増大や技術の変化、社会的価値観の変遷に応じて、時に意図的且つ巧妙に調整せられてきた歴史がある。

 著者は、我々が所有権を主張する際に用ゐる六つの典型的根拠、即ち「所有権ツールキット」を提示する。是等は、①早い者勝ち(First Come, First Served)・②占有(Possession)・③労働(Labor)・④附属(Attachment/Accession) ・⑤家族所有(Family Property) ・⑥家族所有権(Self-Ownership)である。

1. 早い者勝ち(First Come, First Served)
 此規則は、最も原始的にして直感的なる所有権の根拠の一つである。然し、「誰が一番乗りかを誰が、決定するのか」と云ふ定義自体が、支配者や権力者に依て恣意的に行はれることがある。時間や金銭を基準に此規則が再設計せられることで、資源の配分方法が変化し、経済的価値や社会的価値が創出せられる場合がある。一方で、過度の競争や資源の濫獲に繫る可能性も指摘せられてゐる。

2. 占有(Possession)
 身体的な占有に基づく所有権の主張は、人間の最も原始的なる本能に根差してゐる。心理学の「授かり効果」(Endowment Effect)は、人々が一時的にでも所有した物に対し、より高い価値を認むる傾向にあることを実証してゐる。アップルストアが製品を自由に触はり得る開放的なる店構へを採用してゐるのは、此占有本能を利用し、顧客に製品への愛着を抱かしむる為である。されども、物理的占有が常に法的所有権を意味するとは限らない(例:ショッピングカートの中の商品、預けた物)。

3. 労働(Labor)
 「手づから蒔いた種を収穫する」と云ふ思想に基づき、自らの労働の成果を所有すると云ふ原則である。然れども、「何如なる労働が所有権の根拠となるか」の定義は恣意的で、差別の手段として用ゐられることもあった。又「ミッキーマウス延命法」の如く、ディズニー社等のロビー活動に依て著作権保護期間が延長せられ、パブリックドメインの享受が阻害せられることは、創造的労働への報いと公共の利益の間の緊張を示してゐる。

4. 附属(Attachment/Accession)
 此原則は、「明らかに自分の物と分ってゐる物に附属する物は全て自分の物だ」と云ふ直感的なる主張である。伝統的には、土地の所有権は「上は天国迄、下は地獄迄」及ぶとせられてきた。然し、航空機の登場に依て、此「空中の所有権」は制限せられつつあり、ドローンに依る配達の将来的な導入に於ても、空域の所有権の再定義が求められてゐる。又南シナ海に於る中共の人工島建設は、排他的経済水域の権利を主張する為に、岩礁を人工的に拡大し「附属」の原則を応用した大規模な例である。

5. 家族所有(Family Property)
 「家族の物だから私の物」と云ふ主張は、相続や離婚の如き家族の重要なる節目に於て、資産の所有権が何如に移転・分割せられるかを規定する。殊に、米国南部に於るアフリカ系アメリカ人の「相続不動産」の問題は深刻であり、遺言書の無いとき、土地の所有権は多数の遠い親戚に細分化せられ、全員の同意が必要となる故に土地の管理が困難となり、最終的に外部の買手に廉価で買叩かれる事態が多発してをり、白人と黒人との間の資産格差の一因ともなってゐる。

6. 自己所有権(Self-Ownership)
 「私の身体は私のもの」と云ふ自己所有権は、奴隷制の廃止に依て確立した基本的人権なれど、其範囲は常に議論の対象となってゐる。臓器売買(腎臓・卵子)は、人間の尊厳を害ふ行為として殆どの国で禁止せられてゐるが、其結果として闇市場が形成せられ、命が失はれると云ふ悲劇も生じてゐる。著者は、臓器売買を全面禁止する「オン/オフ・スイッチ」的な発想ではなく、適切なる規制の下に市場を設計する「調整つまみ」的発想(例:骨髄幹細胞の売買を許可した判決) が、より多くの命を救ふ可能性を秘めてゐると示唆する。又、職業スポーツ選手がチームによって売買せられる状況や、大学競技選手が肖像権等の自己所有権を制限せられてきた問題・従業員の競業避止義務契約も、自己所有権の限界の問はれる事例として紹介せられてゐる。

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