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ナポレオン狂 (講談社文庫)

ナポレオン狂 (講談社文庫)

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2人が登録
85回参照
2014年2月12日に更新

書籍情報

ページ数:
279ページ
参照数:
85回
登録日:
2014/01/25
更新日:
2014/02/12

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内容紹介

自らナポレオンの生まれ変りと信じ切っている男、はたまたナポレオンの遺品を完璧にそろえたいコレクター。その両者を引き合わせた結果とは?ダール、スレッサーに匹敵する短篇小説の名手が、卓抜の切れ味を発揮した直木賞受賞の傑作集。第32回日本推理作家協会賞受賞の「来訪者」も収録する。
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📝 レビュー (あおみさんのレビュー)

評価:
4/5
レビュー:
私は短編集が苦手だった。
もうこれ以上、面白い展開が思いつかないからここで止めたのではないかと疑ったり、こんな内容の薄さでも一つの作品になり得るのかと呆れることが多かったからだ。
しかし、この作品は違った。
270ページの中に13の作品が載せられているのだが、その中の大半が、綺麗にまとまっているのだ。
短いページ数の中で、展開がはっきりとしており、ページを捲る原動力となる細やかな興奮や恐怖がしっかりとそこにあるのだ。
さらに著者の特徴である、ブラックユーモアも随所に見られる。
決して、恐怖だけでない、下品なだけでない、残酷なだけでない、恐怖や下品さ、グロテスクが感じられ、ページを捲る行為そのものを頭では拒絶しているのに、手は休まない。
奇妙に、そして気持ち良く著者は読者の脳を狂わせる。

13の作品群の中で際立って面白かったのが、1作目に収録されていて、本書のタイトルにもなっている「ナポレオン狂」だ。
極度のナポレオンコレクターと、ナポレオンそっくりの人物が出会ったらどうなるか、という一聴しただけでは滑稽な話としか思えないような内容なのだが、これがまた気持ちの良い恐怖を与えてくれる。
そして想像力が掻き立てられるのだ。

最も話がまとまっていると感じたのは「恋は思案の外」だ。
だらしのない男に騙されて借金を抱えることとなった愛する娘のため、父は誘拐を企み、実行する。
彼の犯行は完璧だったはずなのに、飼い犬からその犯行は発覚する。その原因とは、、。
その他にも車が運転手の代わりに金稼ぎに回るというSF的な話まで、著者は短編で見事に描く。

思えば、収録されている短編にはいつも最後に小さな驚きがある。
え、と一言小さくこぼす程度の驚きでしかないのだが、その一滴が頭の思考の水面を揺らすと、反射する毎に波紋は大きくなり、様々な展開へと思考を巡らさざるを得なくなる。
しかしながら、正解は描かれていない。
読者は悶々としながら、次の話の世界へと歩いていく。

本書は、他の読者と、ああでもない、こうでもないと話をしたくなる一冊だった。

読書履歴

2014/02/12 279ページ

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私は短編集が苦手だった。
もうこれ以上、面白い展開が思いつかないからここで止めたのではないかと疑ったり、こんな内容の薄さでも一つの作品になり得るのかと呆れることが多かったからだ。
しかし、この作品は違った。
270ページの中に13の作品が載せられているのだが、その中の大半が、綺麗にまとまっているのだ。
短いページ数の中で、展開がはっきりとしており、ページを捲る原動力となる細やかな興奮や恐怖がしっかりとそこにあるのだ。
さらに著者の特徴である、ブラックユーモアも随所に見られる。
決して、恐怖だけでない、下品なだけでない、残酷なだけでない、恐怖や下品さ、グロテスクが感じられ、ページを捲る行為そのものを頭では拒絶しているのに、手は休まない。
奇妙に、そして気持ち良く著者は読者の脳を狂わせる。

13の作品群の中で際立って面白かったのが、1作目に収録されていて、本書のタイトルにもなっている「ナポレオン狂」だ。
極度のナポレオンコレクターと、ナポレオンそっくりの人物が出会ったらどうなるか、という一聴しただけでは滑稽な話としか思えないような内容なのだが、これがまた気持ちの良い恐怖を与えてくれる。
そして想像力が掻き立てられるのだ。

最も話がまとまっていると感じたのは「恋は思案の外」だ。
だらしのない男に騙されて借金を抱えることとなった愛する娘のため、父は誘拐を企み、実行する。
彼の犯行は完璧だったはずなのに、飼い犬からその犯行は発覚する。その原因とは、、。
その他にも車が運転手の代わりに金稼ぎに回るというSF的な話まで、著者は短編で見事に描く。

思えば、収録されている短編にはいつも最後に小さな驚きがある。
え、と一言小さくこぼす程度の驚きでしかないのだが、その一滴が頭の思考の水面を揺らすと、反射する毎に波紋は大きくなり、様々な展開へと思考を巡らさざるを得なくなる。
しかしながら、正解は描かれていない。
読者は悶々としながら、次の話の世界へと歩いていく。

本書は、他の読者と、ああでもない、こうでもないと話をしたくなる一冊だった。

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