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美術の物語

美術の物語

エルンスト・H. ゴンブリッチ

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レビュー

zooko012
zooko012 2016年7月読了
ただその一冊を読むだけで、視界がパッと開けて豊穣な世界が広がり、その後の物の見え方が変わってくる。そんな優れた概説書が稀にある。この本は間違いなくそんな一冊。

「これこそが美術だというものが存在するわけではない。作る人が存在するだけだ」「(古代の時代から、画家達は『これで決まり』という瞬間を求め悩み、この不完全な世界に、完全なものを出現させる」という言葉で始まる本書。

美術がその時代の物の見え方を表すものであったこと、アルタミラ洞窟の時代から始まる美術の歴史は、前の時代の物の見え方を克服す連なりであったこと。その結果として現代美術があること。

400以上の及ぶ図版を縦横無尽に使い(基本1頁1枚、全てカラー)、各時代の絵を比較し、当時の画家が何に悩み、克服した点がどの点なのかが、抽象的にではなく、実際の絵を使って具体的に指摘される。へー!と思うことばかり。美術において使われがちな難解な表現は一切ない。一方で、著者の記述に込められる熱量というか、美術・人の営み・「これで決まり」を求め続けた各時代の画家達に対する敬意というかは、尋常でない。とりわけ、レンブラント、ミケランジェリやゴッホを語る筆致などの何と楽しげなことか。

文章だけで500頁、図版を入れると1000頁にも及ぶ大著であるが(でも2100円)、夢中になって読んだ。これまで好きな絵はあるものの、興味のない絵は、興味のないままふーんと素通りであったが、画家が絵に何を託そうとし、どこに着目して見ればその絵が興味深いものとして立ち上がってくるのか、わかった気がする。本書は世界で一番売れた美術書らしいが、そうであるのも当然なほど素晴らしい。また、折りをみて、読み返してみたい。たぶんまた新しい発見があるような気がする。


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